著者:エア・チャップマン
訳者:熊谷玲美
発行:河出書房新社 2022
原書名:FIRST LIGHT: Switching on Stars at the Dawn of Time, 2021
現在、自然界にある元素は原子番号1の水素から92のウランまで92種類あるが、ビッグバンの当初は水素とヘリウムしかなかった。そこから恒星が生まれ、その内部で核融合反応が起こる中で原子番号26の鉄までの元素が生成され、それが超新星爆発で宇宙空間にばらまかれ、次の世代の星が形成され、現在は第三世代の星まである。そうした星の爆発、形成を経て92種類の元素が生成されてきた。したがってカール・セ―ガンの言葉のように「私たちは星くずから作られた」のである。
このような話は、どこかで読んだか聞いたかしていたので、当然、第一世代の星は発見されているものだと思っていた。ところが、そうではなかった。本書は、第一世代の星:ファーストスターを探すさまざま取り組みの最前線を詳細に紹介してくれる。前半は恒星のスペクトル解析や宇宙背景放射の話などふわっとした内容であったが、後半になればなるほど、どうしたらファーストスターにたどり着けるかの細かい内容になり、よくわからなかったが、ダークマターとの関連もあり、最初の星の光を探すことは単に発見のための試みでないことが分かった。
本書の本筋とはあまり関係ないが、ラグランジュ点の話が面白かった。天体力学において三体問題は通常は解けないが、天体の重力がつり合い安定する場所が5つあり、L1からL5という名前がついている。2021年12月に打ち上げられたジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡は、太陽と地球を結んだ線上で地球から太陽の反対側約150万kmのL2点に位置し赤外線で宇宙を観測するというのである。地球で太陽が隠されるため赤外線での観測にはうってつけの場所だそうである。ちなみに前身のハッブル宇宙望遠鏡は地表から600kmの軌道上にあり、スペースシャトルを使って何回か修理しているようです。ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡は地球から150万kmも離れているので修理に行くのは難しいようですが、2022年の8月に送られてきた木星の詳細な画像を見ると、とりあえずその心配はなさそうですね。