著者:カルロ・ロヴェッリ
訳者:冨永星
発行:NHK出版 2019
原書名:L'ordine del tempo, 2017
当然のように存在すると思っている「時間」が普通に考えられているようなかたちでは「存在しない」ことを丁寧に説明する衝撃的な本。アインシュタインの相対性理論により、統一的な時間は存在しないことは広く知られているが、著者によると「わたしたちが経験する時間に似たものはほぼないといえる。『時間』という特別な変数はなく、過去と未来に差はなく、時空もない。」そうだ。「この世界が時間のなかを流れるのが見える。」のは、わたしたちがこの世界を近似的に見る、この世界をぼやけた形でしかみえないことに量子の不確かさが加わって生じるらしい。
相対性理論や量子力学の基本方程式では、過去と未来に差はないが、世界をぼんやりとみることからエントロピーの概念が生じ、そこから時間の感覚が生じるらしい。と言われても狐につままれたような気分であるが、この世界はものではなく、出来事からなる世界であり、「エントロピーの増大が過去と未来の差を生み出し、宇宙の展開を先導し、それによって過去の痕跡、残滓、記憶の存在が決まる」。この「記憶によってまとめられたこの世界の眺めがある」から「わたしたちが時間の『流れ』と呼ぶものが生まれる。」そうだ。
そうすると、赤ん坊として生まれ、様々な学習や経験をして、やがて老いて死んでいく人間の一生とはなんなのか、、そもそも人間とは何なのかなどなど、普段あまり考えることもないが、本書を読んだことで、何かの拍子にそんな状況になったときに、新しい視点を与えてもらったような気がする
著者は、「超ひも理論」と並んで量子論と重力理論を統合した「量子重力理論」の有力候補である「ループ量子重力理論」を主導する一人であるとのことである。超ひも理論については、啓蒙書でもお目にかかることはあるが、ループ量子重力理論についてやさしく解説した本があれば読みたくなってきた。