2020年に来日を予定をしながらコロナ禍で共演を果たせなかった俊英ミケーレ・マリオッティがついにやってきた。そしてピアノに萩原麻未を迎えたウイーン古典派・ロマン派の演奏会だ。スターターはモーツアルトの21番の協奏曲ハ長調K467。出だしからオーケストラはとても丁寧な音楽を作る。日頃日本のオケでは滅多に聞けないような弱音の緊張感と美しさが印象的だ。その深い音楽に乗せて萩原のソロは時に繊細、時に大胆なほどに力強く幅広いレンジの音を作ってゆく。だからロココの微笑み以上に奥行きの深い立派なハ短調協奏曲に仕上がった。アンコールは最初はBachの平均律かと思ったら、グノーの「アベ・マリア」がしっとりと奏でられ静謐な空気を会場にもたらしてくれた。そしてメインはシューベルトの交響曲第8番ハ長調D944。ここでもマリオッティの棒は丁寧。とりわけ強弱のニュアンスを豊かに引き出すのが大きな特徴だ。もちろんその棒に追従した東響の貢献は大きく、棒弾きをしないとこんなにニュアンス豊かな音楽が立ち上るものなのだと言うことを再認識した。そしてここぞという処では渾身の力が入る。しかしそれは決して粗くならずにあくまでも音楽的なのだ。そんな訳だから同じフレーズの繰り返しが多くて日頃冗長に感じる時もあるこの「ザ・グレート」だが、今回は飽きるところは一刻たりともなくシューベルトの世界にのめり込めた。特筆すべきは東響の木管アンサンブル(荒・Neveu・竹山・福士)の素晴らしさ。そして随所でアクセントを添える硬質なティンパニーも良かった。2019年にペーザロのピットで「セミラーミデ」を聞いて以来素晴らしい指揮者だと思っていたのだが、やはり間違いはなかったようだ。オケからも歓迎されている雰囲気だったので、是非また東響に来てほしいと思う。今度はブラームスの2番あたりを是非聴きたいものだ。
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