2016年にもこのオケを引き連れて来演している山田和樹だが、今回は首席指揮者/アーティスティック・アドヴァイザーとしての”凱旋公演”である。バーミンガムと言えばロンドンに次ぐ英国第2の都市なのだから、なかなか凄いポジションであることは確かだ。前任者にはラトルやネルソンズの名前があるところを見ると巨匠への登竜門かもしれない。さて、この日の曲目はピアノにチョ・ソンジンを迎えたショパンのピアノ協奏曲第2番ヘ短調作品21と、山田が熱望したというエルガーの交響曲第1番変イ長調作品55だ。まずショパンだが、2015年ショパン国際コンクール覇者のチョのピアノは繊細を極めた外連味のない率直な表現でとても好感の持てるものだった。それは巷で言われる「ショパン弾き」とは一線を隔する音楽だ。ただこの日のピアノ(スタインウエイ)の音はどこか冴えがなく、実力を発揮できていたかどうかは私には疑問だ。一方山田のサポートもそのピアノに対峙すべく微細を極め行き届いていた。更に凡ゆる声部のバランスが見事に整っていて表情づけも丁寧なので、ショパンのオーケストレーションの不満を感じる瞬間はひと時もなかった。アンコールは何とラヴェルの「道化師の朝の歌」だった。こんな曲を持ってくること自体、自分はショパン弾きではなく「ピアニスト」なんだと主張していることではないか。繊細さはもちろん、シャープな切れ味もある文句のない出来栄えなのだが、何故か私にはここでも色彩が感じられなかった。休憩を挟んでのエルガーは「お国もの」だけあって誠に共感に満ちた出来栄えだった。作曲者の生地であり、最愛の場所でもあったMalvernのなだらかな丘の続く風景が目にみえるような懐の深い豊かな音楽が続く50分。とりわけ深くウエットな叙情を湛えたアダージョから輝かしいフィナーレにかけての盛り上がりには心が躍った。決してヴィルティオーゾオケではないが、(だからこそ)このオケの音は実に親しみやすい雰囲気を持っている。それは山田とオケの現在の最良の関係を物語っているようで、聞いているこちら側にも幸福をもたらせてくれる時間だった。アンコールは音が厚いのでエルガーかなと思いつつ聞いていたのだが、HPで調べたらウオルトンの映画音楽「スピット・ファイヤー」から威勢の良い前奏曲だった。(譜面の赤い表紙には「前奏曲とフーガ」と書いてあった)これには会場は大盛り上がり。バイバイと奏者全員が観客に手を振って捌けた後に山田のソロ・アンコール一回でお開きになった。実に心楽しい良い時間だった。
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