今が旬のソプラノとバリトンによるヴェルディの中期作品だけを集めたデュオ・コンサートである。男声にテノールでなくバリトンを当てたところがいかにもヴェルディに相応しく、プログラミング・ディレクター(西巻正史)のセンスが光る。伴奏の河原忠之の語りによると二人とも帰国したての「凱旋公演」だという。(森谷は5月にゼンパー・オペラのバタフライ、大西は4月にヒューストン・グランド・オペラのピン)それに相応しくご両人のテンションは相当なもので、まさに「情熱迸る一夜!」であった。相当なものといえばプログラムも盛り沢山で、「豪華絢爛の一語!」に尽きる選曲だった。まずは森谷による《シチリア島の夕の祈り》より四幕のアリアと五幕のボレロ風アリアの二曲。これはスターターとあっていささか不安定だった。次に大西が登場して《仮面舞踏会》より一幕のレナートによる希望に満ちたアリアと三幕の憤怒のアリア。こちらは最初から絶好調だ。次のステージは二人の共演で《シモン・ボッカネグラ》から一幕一場フィナーレの父と娘の二重唱をシットリと聴かせた。休憩を挟んで後半は《椿姫》より二幕のビオレッタとジェルモンの二重唱で始まったが、さすがこういう曲になると、大西の若さが目立ってしまった。次は《イル・トロヴァトーレ》より二幕のルーナ伯爵のアリアと四幕のレオノーラとの二重唱。これは中期ヴェルディの朗々たる「歌」が二人の声の輝きと力強さを実感させた。そして最後のステージは《リゴレット》より二幕フィナーレの父と娘の二重唱。こちらも大西の輝かしい歌声、森谷のパワーが炸裂した実に若々しいステージだった。盛大な拍手は瞬時に手拍子に変わり、登場した森谷がアンコールしたのは何と《マクベス》からマクベス夫人の登場の場面!。ここまで全力で歌って来たにも関わらず、手紙のシェーナから始まってカヴァティーナ、そしてカヴァレッタとフルに凄まじい勢いの歌唱だった。続いて大西は《椿姫》から3幕のジェルモンの息子を諭す名アリア。こちらではちょっと間違えて歌い直すご愛嬌もあったが、それもユーモア混じりの堂々たる舞台マナーでかわした。そして最後は同じく《椿姫》から1幕フィナーレのヴィオレッタのアリア(シェーナは省略)。ここではアルフレードが客席&舞台端から参加し、客席のスタンディング・オベーションでお開きとなった。新国のシニアコレペティのタイトルを持つ河原忠之の伴奏は、オケを思わせる表情豊かなもので舞台に臨場感を与えて大きく貢献した。全体を通して今が旬の二人の歌唱は実に力に溢れて胸が空くものだった。しかし、凱旋公演だという特別な機会だったことを承知した上で、大西には今後はより深い歌が歌えるようになることを願いたい。そして森谷には、コモリのないより明確なイタリア語と、勢いに頼らないより丁寧な歌を望みたい。とりわけヴェルディは歌い飛ばすと骨格が失われ、ヴェルディらしい気品の輝きを欠いてしまう。そこがプッチーニと違うヴェルディの難しいところだ。ともあれ今後のご両人の活躍を大いに期待したい。
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