2023年度の期首を飾ったのは、首席指揮者トレヴァー・ピノックを迎えたウイーン古典派の夕べである。まずはシューベルトのイタリア風序曲ニ長調D.590だ。聞いていてどこか聞き覚えがあるようなフレーズだなと思っていたら、「ロザムンデ序曲」の下敷きとなった曲だそうである。明るく屈託のない曲調はスターターにピッタリだった。続いてはモーツアルトの交響曲第35番ニ長調K.385《ハフナー》。ほぼビブラートのないフラットな弦の響きでスッキリとまとめ上げられた演奏だったが、その弦のアンサンブルに紀尾井にしては珍しく少しく力みが感じられる仕上がりで洗練を欠き、ホーネックだったらこんなじゃなかったなと思わせるところもあった。しかしティンパニとトランペットが殊更強奏されるようなことはなかったので、古楽系演奏の初期にありがちだったような尖った聞きにくい感じにならなかったところは好感が持てた。そして休憩を挟んでシューベルトの交響曲第8番ハ長調D.944《ザ・グレイト》。ピノックは77歳になるのだが、音楽の足取りは全く弛緩するところがなく軽快にどんどんと進む。それはある意味たいそう気持ちが良いのだが、4つの楽章の性格付けに明快さを欠いていたように聞きとれた。その結果立派な演奏ではあるのだが、どこを切り取っても同じように聞こえてしまい、いささか冗長な感じを免れることができなかった。
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