薬で治せぬのは人の業なり
元渡世人にして腕利きの町医・宋哲。
裏社会の縄張り争いが激しくなって、
またも厄介事に巻き込まれる羽目・・・。
江戸で一番の顔役だった黒門の喜之助。その勢いに翳りが見えて、
やくざ者たちの勢力分布に異変が生じてきた。元渡世人の過去を捨てた
宋哲は、なるべく関わらずにいようとするが、そうは問屋がおろさない。
人宿で奉公を願い出た女が突然苦しみはじめ、これを往診したことから
事態は思わぬ方に流れて・・・。
著者円熟の腕が冴え渡る、好評シリーズ第二弾
『やる気のない刺客 町医・北村宋哲』(佐藤 雅美) 角川書店
中国医学の古典である『霊枢(れいすう)』に、こうある。
「上工(じょうこう)は未病(みびょう)を治(ち)し、已病(いびょう)を治さず」
腕のいい医者は病状に発現しないうちに見抜いて療治を施すもので、病状が
悪化してからあわてて治療したるするようなことはしない。
おなじく古典の『小品方(しょうひんほう)』にはこうある。
「上医は国を医(治療)し、中医は人を医し、下医は病を治す」
病を治す医者は医者として下位に位置する。かの孟子(もうし)はこういっている。
「七年の病に三年の艾(もぐさ)を求む」
七年も患っていながら、三年かけなければ作られない艾をあわてて求めるような
心がけの悪い者がいるが、自分の健康については普段から気をつけねばならない。
政治も同じであると暗に孟子はいうのだが、このように中国医学は予防医学を
重視する。
漢方(かんぽう)というのは蘭方(らんぽう)に対する用語で、中国医学そのものを
指すのではなく、中国医学に基づいて日本で発達した医学のことだが、精神は
おなじである。共に、予防医学を重視する。
宋哲の医院、北村堂は神明前の七軒町(現在の東京都港区芝大門一丁目周辺)にあり、
東方向、浜松町一丁目の日本橋通り沿い、銭両替屋を兼ねている長崎屋を
宋哲は出入りの生薬屋(きぐすりや)にしていた。
出典・引用
『やる気のない刺客 町医・北村宋哲』(佐藤 雅美) 角川書店¥1,600(税別)