新潮社
2013年2月 発行
361頁
東北在住の直木賞作家が、深い喪失と悲しみのあとに残された人々を希望の光で照らす、再生と矜持の感動巨編
函館-わずか20年で3度も悲劇に見舞われた町
第一部 喪失 昭和9年春、函館大火災
第二部 再生 昭和20年夏、函館大空襲
第三部 鎮魂 昭和29年秋、青函連絡船「洞爺丸」沈没
そのすべてに遭遇してしまった男-泊敬介
潜水士だった父親の後を継ぎ、従業員数人ながら光栄丸という船を持ち、妻と幼い娘と仲良く暮らしていた敬介だったが、昭和9年の函館大火災で妻は死亡、娘は行方不明になってしまう
その後、避難のどさくさで知り合った静江と再婚
静江が避難途中で拾った幼い男の子・伸一郎と3人で暮らし始める
時は戦争にひた走る時代
大火災から10年が経ち
函館港の整備が進んで大型船の入港が増え始めたことから敬介と仲間たちの「泊組」は順調に業績を伸ばしていた
しかし、昭和20年、函館は大空襲に見まわれる
敬介は重傷を負い、光栄丸は火災沈没、潜水道具等すべてを失う
終戦後、怪我からは回復したものの片足が不自由になった敬介は、潜水士の仕事には戻れず、闇市で干物や一夜干しを売って日々を過ごしていたが、潜水士仲間と泊組を再建するという目標は生活に張りを与えてくれていた
ただひとつ気になるのは、戦地から復員した伸一郎の様子がおかしいこと
潜水士の仕事を継ぐ気は全く無さそうだし、闇市で危ない仕事に関わっているらしい
苦言を呈する敬介は伸一郎から聞かされた話に言葉を失う
予科練を繰り上げ卒業した後、特攻隊の中でも特殊な『伏龍隊』に配属されていた、だから海には潜れないというのだ
伏龍隊については「群青に沈め 僕たちの特攻」に詳しく描かれていますが、人が潜水して待機し敵船が近づいてきたら爆破するという、今なら荒唐無稽といえる作戦です
自分が拾われた子であることなどもあり敬介と静江の元から去っていく伸一郎だった
昭和29年
内地で暮らしていた伸一郎が結婚を考えているという女性・鈴を連れて函館に戻ってくる
伸一郎と鈴の話に驚愕し涙する敬介と静江
ここで物語は一気に盛り上がります
鈴という女性が何者なのかは読んでからのお楽しみ♪
敬介、静江、伸一郎、鈴の4人は、洞爺丸に乗って内地に向かうことに
しかし、海の様子を見ていた敬介には悪い予感が…
敬介以外の3人は下船出来るも、敬介は間に合わず洞爺丸は出港
そして沈没に遭遇してしまいます
火災と空襲の二度まではあるにしても洞爺丸までとは、この人はなんという運命の元にあるのでしょう
敬介の生き様からは
勿論、投げやりになった時期はありましたが、何度辛い目にあっても、人は人と助け合い、立ち上がり、再生していくのだという強さが伝わってきます
設定はベタかもしれませんが感動しました
何度かウルウルときました
人と人を結びつける絆は、人生の苦難や嵐を乗り越えれば乗り越えただけ、いっそう太くて強固なものになる。
ただし、その絆は、人の努力によってのみ作られる。
裏返せば、努力を怠ったとたん、存在したはずの絆はあっさり切れる、ということだ。
そして、なにかの因果で生き延びてしまった者は、与えられた日々を精一杯生きることでしか、死者の魂を悼み、鎮めることができないし、それが残された者に課せられた義務なのだろう…。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます