講談社文芸文庫
2010年10月 第1刷発行
解説・三浦雅士
251頁
帯より
日常にひそむ光と闇
生々しい現実
豊穣の文学
人生の断片、12の短編
著者60代半ばから70代半ばにかけて書かれた短編群
都心から電車で一時間弱の町に暮らす老年の域に達した男性の日々の暮らしが生々しく描かれています
狼狽えたり、エロティックな想像をしたり、妻に対し腹を立てたかと思えば、すぐ諦めたり
不思議世界のような話もあって厭きずに思ったよりすんなりと読むことができました
一点、 作品中に「遡齢」という単語が出てくるのですが、これは本当にある言葉なのでしょうか?
「加齢」の逆の意味で、医者に前回の健康診断の時より若返っている、と言われた男の戸惑いを描いています
『ベンジャミン・バトン』みたいになったらそりゃ困りますよね
最後に収録されている「著者から読者へ」より
連作の一部とか、やがていつか書こうとする長編小説のどこかに組み込まれる、といった短い作品ではなく、三十枚、五十枚の短さで、確固として独立した作品世界を作り上げているような短編小説に対する憧れは強い。
その短さは、長い短いといった量の上で計られた相対的な短さであるというより、長くないが故に生み出された凝縮する力、たとえ視界は広くなくとも一点を掘り下げる深さと奥行きを備えた、いわば絶対的な短さであるに違いない。長編小説の抱えているのがゆったりとした豊かさであるとしたら、短編小説の芯にあるのは鋭さだ、といってみたい気持ちが強い。
そのように短さにこだわる小説は、いわば頑固な一本の樹木の如きものなのだが、そうだとしたら、近くにある木々との関係、木立や林との近さ遠さなどを確かめてみたくなる。その視界の中で、当の樹木の姿は一層くっきりと浮かび上がってくるのではあるまいか。そして短編小説集とは、そういった樹木の集まりである。短さを目指した作品の束である。各作品の独立する力が強ければ強いほど、それは他の作との違いを際立たせながら、かえって全体として一つの顔を持つ群棲を生み出している。その光景の面白さが短編小説集を読む楽しみの底にある。先の譬えに続けていえば、一本の樹木を見つめる興味と、それが周囲の木々とともに作り出す木立や林の陰影を眺める楽しみとの両面があるように思われる。
今までは気楽に読めるということで選んでいた短篇集ですが、そういう読み方を180度変えるきっかけとなりました
奥が深いゾ、短編集
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