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吉村昭「三陸海岸大津波」

2013年05月07日 | や・ら・わ行の作家

 

文春文庫
2004年3月 第1刷
2011年4月 第9刷
解説・山文彦
184頁

 

明治29年と昭和8年の二度に渡り三陸地方を襲った大地震と大津波、昭和35年のチリ地震津波の貴重な証言・記録を発掘、まとめた記録文学

 

一昨年の大地震で大津波に襲われた地域の映像は上空か高台から映されたものが殆どでしたが、本作を読むと、今まさに真後ろに迫ってくる大津波が手に取る様に見えてきます

恐怖に足が竦む思いです

 

昭和8年の大津波で被害をうけた田老町(当時は田老村)の田老尋常小学校生徒の作文の中に当時6年生だった牧野アイさんの書いたものが載っています

アイさんは家族でただ一人の生き残りで田老村の叔父一家に引き取られた後、宮古、根室の親戚を転々とし19歳で田老村に戻り教員の荒谷功二氏と結婚しました

ご主人も津波で家族を亡くした悲劇的な過去を持つ人で、昭和45年吉村さんは49歳になったアイさんに取材をしています

津波の恐ろしさを知る二人は地震があると子供を背負い山へ逃げるのが普通のことになっているそうです

そして平成23年、再びアイさんは大津波を経験することになります

現在、アイさんは91歳

震災当日は高台にある老人介護施設にいたため無事だったものの自宅は完全に流されてしまったそうです

 

本書がまとめられた昭和45年当時

明治29年~昭和8年~昭和35年

津波による死者数も流出家屋も減少の一途を辿り、住民の認識が深まり津波防止施設が整ってきた、とあり田老町でも今後も被害は軽減されていくであろう、と吉村さんは書いています

 

岩手県田野畑村の老人の言葉

「津波は、時世が変わってもなくならない、今後も必ず襲ってくる。しかし、今の人たちは色々な方法で十分警戒しているから、死ぬ人はめったにないと思う」

度重なる津波の激甚に堪えて毅然とした姿で海と対し、その海岸で津波と戦いながら生きてきた人々

これからも故郷を離れず津波をいつか来るものと受け止めて生きていくのでしょうか

 

地球規模の時間でみれば人間はとても小さくほんの一瞬しか存在しないものなのかもしれませんが

悲惨な経験を未来に生かしていく努力は続けていかなければ、と思いました

 

 


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