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藤沢周平「時雨のあと」

2013年08月03日 | は行の作家

 

新潮文庫

1982年6月 発行

2002年8月 39刷改版

2012年1月 65刷

解説・藤田昌司

282頁

 

 

下級武士や貧しい市井の人々が登場する人情世界を描いた短編集です

 

「雪明かり」

わずか35石の貧しい下級武士の家に生まれ、口減らしのため養子に出された菊四郎は養家でも肩身の狭い日々を余儀なくされている

養家が決めた許婚、日々のお勤め

全てを放り投げて江戸へ向かおうとする

江戸で彼を待っているのは…

 

 

「闇の顔」

普請場で斬り合いの後と思われる血まみれの男が二人見つかった

武家とは名ばかり、厳しい階級社会の中で一生うだつの上がらない平ざむらいの惣七郎と友人鱗次郎が関わることになる藩の権勢争い

 

 

「時雨のあと」

足を折ってトビ職から日傭とりになった末、博打で借金を拵え、たった一人の妹を女郎に売り飛ばしてしまった安蔵

兄は真面目に働いていると信じていた妹は兄の真の姿を知り寝込んでしまう

 

 

「意気地なし」

乳呑み児を置いて女房に死なれ、虚脱状態になっているダラシない職人と、その父子家庭に同情する同じ長屋の娘

許婚と会っていても、ついつい赤ん坊のことを考えてしまう娘

許婚とは擦れ違いが決定的なものになってしまうが、娘の心にはそれより大事にしたい人がいた

 

 

「秘密」

年老いて半ば耄碌した町人の隠居

何かしらいつもと違う雰囲気の舅を気遣う嫁

舅はぼんやりとした記憶の中からある秘密を思い出していた

 

 

「果し合い」

部屋住みの厄介者、大叔父の佐之助を慕う娘

厄介者であっても、厄介者であるからこそ

家やお勤めに縛られない人間らしさを理解する大叔父に助けられ

娘は自分の生きるべき道を選ぶことが出来た

 

 

「鱗雲」

石高わずか百石の下積み近習組の新三郎

国に戻る途中、高熱で倒れていた若い娘を家に連れ帰る

仕込杖を持つ娘には他人に語れない秘密があるらしい

 

 

どれも最後の一文または数行が実に良い

「闇の顔」以外は女性が主役といえるかもしれません

 

作者あとがきに

江戸時代特異の物語ではなく現代と共通する部分によりかかって出来上がった短篇集

とあります

 

人情味が薄れてきた現代の渇きを癒す温かい飲み物のような秀れた短篇集でした

 

 

 


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