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藤沢周平「市塵」

2017年10月15日 | は行の作家

 

講談社文庫
2005年 5月 第1刷発行(上・下)
2014年 9月 第20刷発行(上)
2015年10月 第18刷発行(下)
解説・伊集院静
上巻・320頁
下巻・291頁

 

 

江戸時代中期に生きた儒者、歴史家・新井白石の生涯を描きます
貧しい浪人生活の後、甲府徳川家に召し抱えられ、六代将軍家宣となった藩主のもと、幕政を実質的に指導し正徳の治と呼ばれる一時代をもたらす一翼を担いますが
家宣の死後、幼君の七代将軍家継が夭逝し、八代将軍吉宗の時代になると失脚
引退後、晩年は著述活動に勤しみ68歳で亡くなります

 

 

政治の中枢部で日々を過ごした白石とは対照的に描かれるのが不肖の弟子・伊能
自分の能力に限界を感じた彼は、惹かれ合った人妻と出奔
後にはきちんと夫婦となり、うどん屋で修行中の身です
自分の生き方とは別の道を選んだ弟子に対し、自分が表舞台にいた頃には色々と思う処のあった白石ですが引退し老いを迎えた今
「必ずしも学問で身を立てなければならないことはない、うまいうどんを作れるようになれば、それはそれでけっこうではないか」
とも考えるようになります
歳を重ね、挫折を体験し、自分とは違う生き方も受け入れる余裕が持てるようになったのでしょうか

 

何ともやり切れないのは吉宗政権下では全く必要とされていない事実を思い知らされた白石が心のうちに思う言葉「市塵の中に帰るべし」
仕方のないこととはいえ、切ないですねぇ

 

実在した人物の記録小説ということで吉村昭さんを思い浮かべる箇所もありましたが、藤沢さんの文章からは白石の歓び、悲しみ、落胆、絶望、苦悩をリアルに感じ取ることができ、上下巻で600頁を越える骨太長編作は読み応え十分、人生を生き切った一人の男の物語は気持ちのよいものでした

 


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