日本経済新聞出版社
2013年2月 第1刷
336頁
デビュー作「野いばら」の後
いつ新作が発表されるのかと待っていましたが
自分が知らなかっただけで、1年以上も前に出版されておりました
前作同様
叶わぬ恋と悲哀を満州・ハルビンとドイツ・ベルリン、南米・ブエノスアイレスを舞台に描きます
戦争の足音が近づく1930年代の満州で道ならぬ恋に落ちた男女
男は、満州国国務院経済部に籍をおくエリート官僚・百済タダシ
女は、満州の日本酒酒造メーカーの社長夫人・倉橋奈津
チェリストとして演奏会に参加するため出かけた練習場所でピアニストとして参加する奈津に出会ったタダシ
音楽を通して心を通わせあうようになる二人だったが、既婚者である奈津との恋は叶うはずもなかった
太平洋戦争が勃発
百済の同僚、孫江の画策もあり
対独工作のため“18世紀の貴婦人”と呼ばれるチェロをベルリンに運ぶというミッションを命ぜられる百済
それが成功すれば役人の令嬢との結婚と出世の道が用意されるのだという
奈津への想いを断ち切り命令に従うべきだという声と、同じ頃夫の仕事の関係でベルリンへ滞在する奈津となんとか連絡を取ってブエノスアイレスへの逃避行を望む声
二つの声に苦悩する百済が下した決断は…
2004年 ブエノスアイレス
会社の倒産で職を失い、再起を図ろうとブエノスアイレスにやってきた平悠一
彼が、隠れたワイン生産国アルゼンチンで仕事のためのワインの試飲を重ねるうちに知り合った日本人の老チェロリスト・タダシに聞かされた話を思い出す、という形で物語は進みます
タダシはブエノスアイレスへ逃亡したようですが、奈津は一緒だったのでしょうか…
タダシの思い出話の合間に挟まれる、孫江の主観、奈津の日記、悠一の現状生活
基本、恋愛小説ですが、戦時中のスパイ活動や逃亡計画、おまけに“18世紀の貴婦人”まで行方不明になるというミステリーつき
タダシと奈津の恋物語は、とてもとても気高く切ないものでした
次作の刊行を楽しみに待ちましょう
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