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半村良「すべて辛抱」

2014年08月18日 | は行の作家

 

集英社文庫
2003年8月 第1刷
2004年12月 第5刷
解説・清水良範
上巻 381頁
下巻 351頁

 

 

時は、18世紀の終りから19世紀半ば
安泰と思われてきた幕藩体制が徐々に揺らぎ始めたころ

 

鹿沼の地(今の栃木県鹿沼市)に暮らす貧農の子・亥吉と捨て子の千造
鹿沼にいては貧農から逃れることはできないと考えた亥吉の母の勧めで、青空寺子屋で地面に棒きれで読み書きと躾と言葉遣いを習い、11歳にして江戸に発つ
薬種問屋に奉公した亥吉は真面目な働きぶりを若旦那に認められるようになる
一方の千造は、紹介されたはずの奉公先が見当たらず、生きるために一時は盗賊にまで落ちるが亥吉との再会により立ち直り、二人力を合わせて商人の道を歩むようになる

亥吉と千造には先を見通す眼力のようなものがあり、まだ誰も始めていない商売を始めて財を成し、人が真似をし始めるとさっさとその商売から手を引き、財を元手にまた新たな商売の計画を練り始める、を繰り返します
食べ物屋、食器店、時代に先んずる物品を扱う雑貨店、さらには長屋経営、土地売買、金融業
大成功を収めた商売もあればそうでもないものもあり、二人の立身出世話とも若干違う雰囲気で物語は進みます

度々出てくるのは『彼らは時代より先を走っている』『後世には〇〇と呼ばれるシステムを自然に作りだしていた』
彼らは時代の寵児のような扱いを受け始めるとさっと身を翻して深く潜行
浮ついた状態がいかに危険か、よく理解しています

少し前にちやほやされた挙句塀の向こうで御勤めをした誰かさんとは『辛抱』の度合いが違います
あの人、またマスコミに持て囃されていますけど、どうなの?

 

二人が江戸でそこそこ生活していけるようになってからも、一度も鹿沼の母親に連絡もとらず、故郷にも戻らなかったこと
故郷がどうなったかの話もなかったこと
そんなところにも『辛抱』が見え隠れします

 

幕末に向けて混乱し始める江戸で、辛抱を厭わず、背伸びせず、地道に自分たちに出来ることをやり続けた亥吉と千造の半生
言い知れぬ感動を与えてくれる作品です

 

 


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