「頑張(がんば)ってるわね。少し休憩(きゅうけい)しない?」
母親は娘(むすめ)の部屋(へや)へ飲み物を運んできて言った。まだ小学生なのに良くできた子で、何も言わなくてもちゃんと勉強(べんきょう)をしてくれる。親(おや)としては、小言(こごと)を言う必要(ひつよう)がないので、とても助(たす)かっている。母親は娘が何をやってるのかと手元(てもと)を覗(のぞ)いてみた。
すると娘は手で隠(かく)しながら、「見ちゃダメ。まだ書けてないから」
「何をしてるの?」母親はダメと言われるとますます気になってしまう。
娘は、「宿題(しゅくだい)。家庭(かてい)での役割分担(やくわりぶんたん)について、みんなの前で発表(はっぴょう)するの」
「そうなの。何て書いたの? お母さんにも読ませてよ」
母親は半(なか)ば強引(ごういん)に、娘の書いていた原稿用紙(げんこうようし)を取り上げると、声を出して読み始めた。
「私の家では、朝食(ちょうしょく)はいつもお父さんが作っています。お母さんは朝が苦手(にがて)で、全然(ぜんぜん)起きられないからです。でも、私が学校(がっこう)へ出かける頃(ころ)には起きてきて――」
母親は困(こま)った顔をして、「ねえ、まさか、これを、みんなの前で読んだりしないよね」
娘は原稿を取り戻(もど)すと言った。「するわよ。そのために書いてるんだから」
「ねえ、ちょっと書き直(なお)さない? これじゃ、お母さん、何もしてないみたいじゃない」
「でも、ホントのことよ。私、嘘(うそ)は書けないわ」
「嘘じゃないわよ。お母さんだって、朝ごはん、作ってあげたことあったわよね」
<つぶやき>子供はちゃんと見てますよ。たまには、一生懸命(いっしょうけんめい)のとこを見せておきましょ。
Copyright(C)2008- Yumenoya All Rights Reserved.文章等の引用と転載は厳禁です。