「朝から暗(くら)~い顔してどうしたの?」教室(きょうしつ)の席(せき)でうつ伏(ぶ)せている頼子(よりこ)を見て夏紀(なつき)が言った。
頼子はため息(いき)をつき、「夏紀はいいよね。取(と)り柄(え)があってさ。私なんか…」
「なに、どうしたの?」もう一人、あすみが駆(か)け寄って来て話に加(くわ)わる。
「だってさ…」頼子は二人の顔を見て、「夏紀はバスケで優勝候補(こうほ)でしょ。あすみは学年一番の秀才(しゅうさい)。私には何にもないんだもん。これからやりたいことだって、分かんないし」
「なに言ってるの」夏紀は呆(あき)れた顔をして、「優勝候補っていっても、私一人の力じゃないのよ。チームみんなで頑張(がんば)ってるんだから」
「そうよ。あたしもそれなりに勉強(べんきょう)してるのよ」あすみは眼鏡(めがね)に手をやり、「それに、将来(しょうらい)何をやりたいかなんて、あたしもまだ決めてないわよ」
「でも~ぉ」頼子は口をへの字に曲(ま)げて、「私、勉強ができるわけでもないし、運動(うんどう)だって得意(とくい)じゃない。何かの資格(しかく)や特技(とくぎ)があるわけでも…。それに比(くら)べたら、二人は――」
「そんなこと比(くら)べることじゃないでしょ」夏紀は怒(おこ)ったように言った。
「頼子にだって、いいところはあるはずよ。それに気づいてないだけ」
頼子はあすみの手を取り言った。「たとえば? 私の取り柄(え)って何なの? 教えて」
あすみは首(くび)を少し傾(かたむ)けて、「そうねぇ、たとえば……、素直(すなお)なところかな?」
「そんなの、自慢(じまん)できることじゃないじゃん」頼子は、またため息をついた。
<つぶやき>誰(だれ)でも将来(しょうらい)に不安(ふあん)はあるものです。地道(じみち)にやりたいことを探してみませんか。
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