「なあ、朝飯(あさめし)は?」義之(よしゆき)は寝(ね)ぼけた目をこすりながら言った。
妹(いもうと)の智子(ともこ)が慌(あわ)てて身支度(みじたく)を調(ととの)えながら、「知らないわよ。食べたかったら昨夜(ゆうべ)の残(のこ)り物があるでしょ。あたし、朝練(あされん)なの。おかあさんがいないから、起(お)きられなかったのよ」
「何だよ。お姉(ねえ)ちゃんは?」義之は冷蔵庫(れいぞうこ)を覗(のぞ)きながら言った。
「まだ寝てるんじゃない。今日は休みだって言ってたから」
「全然(ぜんぜん)話しが違(ちが)うじゃない。昨日(きのう)、おかあさんの代わりはするって言っただろ」
智子は焼(や)きすぎたトーストをかじりながら、「お姉ちゃんに言ってよね。それに、そうでも言わないと、おかあさん、旅行(りょこう)になんか行かないでしょ」
「でも、お前だってやるって言ったじゃん。女なんだから、それくらい…」
「あーっ、もう。今どきね、男だって料理(りょうり)ができなきゃダメなんだから。お兄(にい)ちゃんも、少しは自分でやったら」
「何だよ。そんなんじゃ、結婚(けっこん)なんかできないぞ」
「あたし、まだ高校生なんですけど。お兄ちゃんなんか、付き合ってる人いないでしょ」
「うるさいな。ほっとけよ。俺(おれ)だってな、やるときはやるんだよ」
義之はキッチンに立ったが、どこに何があるのかさっぱり分からない。仕方(しかた)がないから、妹が食べている皿(さら)からハムを一枚つまんで口に入れる。
「もう、お兄ちゃん! あたしのとらないでよ。向こうへ行って!」
<つぶやき>母親がいないと困(こま)ること。結構(けっこう)あるんじゃない? 感謝(かんしゃ)の気持ちを忘れずに。
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