彼女はいくつもの曲(ま)がり角(かど)を曲がってきた。そのたびに壁(かべ)にぶち当たり、挫折(ざせつ)を繰(く)り返した。人生(じんせい)は思い通りにならないことばかりだ。でも、嘆(なげ)いていても仕方(しかた)がない。彼女はそのことをよく知っていた。
彼女はけして諦(あきら)めない。彼女には叶(かな)えたい夢(ゆめ)があったから。子供の頃から思い描(えが)いていた夢。だから、どんな困難(こんなん)にも立ち向かって行けたのかもしれない。
ある人が彼女に訊(き)いた。どうして、そんなに頑張(がんば)れるのか?
彼女の答えはシンプルだ。
「だって、後で後悔(こうかい)したくないから。今、できることをしているだけよ」
また、ある人はこうも言った。もっと楽(らく)な生き方もあるんじゃないの?
彼女はよどみなく答える。「生き方は人それぞれよ。私には、今の生活(せいかつ)が一番楽なのかもしれないわ。そりゃ、辛(つら)いこともあるけど、それだけじゃないからね」
彼女は過去(かこ)を振(ふ)り返らない。今を精一杯(せいいっぱい)生きる。それが、明日の一歩へつながることを彼女は信じている。――そして、彼女にも休息(きゅうそく)の時がやって来た。
ベッドの周(まわ)りに家族(かぞく)が集まり、彼女の安らかな寝顔(ねがお)を覗(のぞ)き込む。孫娘(まごむすめ)が言った。
「おばあちゃん、いい顔してるね。きっと、天国(てんごく)でも夢を追(お)いかけるんじゃないかしら」
<つぶやき>長い人生のいろいろを乗り越(こ)えて、やっと見えてくる境地(きょうち)があるのかもね。
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