ひとりの男がブツブツと、誰(だれ)に言うでもなく愚痴(ぐち)をこぼしていた。
「誰なんだよ、ねこの日なんて決めた奴(やつ)は…。そんなの作るから、どいつもこいつも猫(ねこ)、ねこ、ネコって大騒(おおさわ)ぎするんだ。ほんと迷惑(めいわく)な話だ」
そんな彼の膝(ひざ)の上には、ねこがちょこんと寝(ね)そべっていた。男はねこの頭をなでながらさらに続けた。
「ああぁ、猫が苦手(にがて)な奴はどうすりゃいいんだぁ。居場所(いばしょ)なんかないじゃないかぁ」
そこへ店員(てんいん)の女性がやって来て、彼の前にコーヒーを置いて小声でささやいた。
「あの…。そういうことは、ここでは…」
実(じつ)は、ここは猫カフェだった。回りにいた客(きゃく)たちが冷(つめ)たい目線(めせん)を男に向けていた。だが、男はそんなことまったく意(い)に介(かい)さず、「ここでは、猫嫌(ねこぎら)いは客じゃないということか? まったく何てことだ。それに、何でこの店には、猫がこんなにいっぱいいるんだよ」
店員はちょっと困(こま)った顔をしたが、男に微笑(ほほえ)みかけて言った。
「お客さん、ほんとうは猫、お好きなんでしょ? だって、この猫(こ)、いちばん人になつかないんですよ。それがこんなにリラックスしてるんですから…」
男は、膝の上に猫がいるのを初めて気づいたようで、驚(おどろ)いた顔をして言った。
「何じゃこりゃ…。どけてくれ、俺(おれ)は…、ねこは…、猫はダメなんだぁ」
男の膝の上にいた猫が、これに答えるように〈ニャ~ぁ〉と鳴(な)いた。
<つぶやき>猫派とか犬派とかって言いますけど、それに属(ぞく)さない人もいるんですよね。
Copyright(C)2008- Yumenoya All Rights Reserved.文章等の引用と転載は厳禁です。