彼は彼女に言った。「人の皮膚(ひふ)にはいろんな雑菌(ざっきん)が棲(す)み着(つ)いているんだよ。君(きみ)にも、もちろんこの僕(ぼく)にもね。これは、どんなに清潔(せいけつ)にしている人でもそうなんだ」
彼女は、明らかに引いているようで、曖昧(あいまい)に返事(へんじ)を返した。彼はさらに続けた。
「それでね、君の持っている菌は、僕にとって有効(ゆうこう)に働(はたら)くと思うんだ。それはね、僕がとっても君に惹(ひ)かれていることでも証明(しょうめい)できるんだ」
「そ、そんなこと言われても…。あたしは…」
彼は、彼女に考える隙(すき)を与(あた)えなかった。「だから、僕と付き合ってくれないか? もちろん結婚(けっこん)を前提(ぜんてい)としてだよ」
彼女は、彼との距離(きょり)を広げていく。だが、彼は彼女の手を握(にぎ)ると自分の方へ引き寄(よ)せて、
「どうしたの? 君だって、僕のこと気にしてるじゃないか。それは、僕に好意(こうい)を持っているってことだろ?」
「いや、あたしは…。あなたのことなんか…」
「そんな駆(か)け引(ひ)きなんか、しなくてもいいんだよ。僕たち、お互(たが)いを必要(ひつよう)としてるんだ。僕は知ってるんだよ。君が、いつも僕のことを見つめていることを…」
「あたし、そんなことしてません! あなたのことなんか、好きになるはずないでしょ」
彼女は、彼の手を振(ふ)り解(ほど)くと、彼の前から逃(に)げ出してしまった。
<つぶやき>もう、何なんですか? こんなの最低(さいてい)じゃないですか。絶対(ぜったい)ダメですよね。
Copyright(C)2008- Yumenoya All Rights Reserved.文章等の引用と転載は厳禁です。