みけの物語カフェ ブログ版

いろんなお話を綴っています。短いお話なのですぐに読めちゃいます。お暇なときにでも、お立ち寄りください。

0889「空耳」

2020-05-09 18:19:22 | ブログ短編

 いつからか、彼女は、お告(つ)げのような声が聞こえるようになった。最初(さいしょ)のうちは半信半疑(はんしんはんぎ)だったが、その声の指摘(してき)は的確(てきかく)で、彼女を正しく導(みちび)いてくれているようだった。彼女もその声を無視(むし)できなくなり、自分で判断(はんだん)することをやめてしまった。
 そんな時だ。彼女の前にひとりの男性が現れた。彼は彼女にずけずけとものを言った。そして彼女の考え方をことごとく否定(ひてい)し、自分の方が正しいことを主張(しゅちょう)した。彼女の心はざわついた。彼の顔を見るたびに感情(かんじょう)が高ぶり、冷静(れいせい)ではいられなくなってしまった。
 いつもなら、こうなる前にお告げがあるはずなのに、彼が現れてからは聞こえなくなっていた。彼女は何も手につかなくなり、仕事(しごと)で失敗(しっぱい)を重(かさ)ねてしまった。そんな彼女に手を差しのべたのは、その彼だった。
「何やってんだ、お前。そんなんだからダメなんだよ」
「あなたに、そんなこと言われたくないわ。もう、誰(だれ)のせいで…」
「なに甘(あま)えてんだ。ミスをしたのはお前だろ? いつまでもうじうじしやがって」
 彼女は、何も言い返せなかった。彼の言うことは正しいのだ。悪(わる)いのは――。
「心配(しんぱい)すんな。俺(おれ)がちゃんと話をつけといたから。まぁ、上から小言(こごと)はあるだろうがな」
「……あ、ありがとう。でも、何であたしなんかのために…」
「俺も悪かったんだ。いろいろ言い過(す)ぎた。お前の、趣味(しゅみ)のこととか…」
 彼女は首(くび)をかしげた。彼と、趣味のことなんか話したことないはずなのに――。
<つぶやき>もしかして、お告げっていうのは彼の声だったのかもね。恋の始まりかな?
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コメント
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