男は操作盤(そうさばん)の前に座(すわ)っている白衣(はくい)の部下(ぶか)たちに命令(めいれい)した。
「では、実験(じっけん)を開始(かいし)しよう。我々(われわれ)は、今度こそ成功(せいこう)させなければならない。もう失敗(しっぱい)は許(ゆる)されないのだ。これが最後(さいご)のチャンスだ。成功(せいこう)を祈(いの)っている。……始めてくれ」
部下の一人がメインスイッチを押(お)すと、操作盤のランプが点灯(てんとう)して、装置(そうち)が低い唸(うな)り声のような音を立てて動きだした。神崎(かんざき)つくねは渾身(こんしん)の力をふりしぼりもがいてみるが、そこから逃(のが)れることはできそうになかった。男の声が聞こえた。
「心配(しんぱい)することはない。パパに任(まか)せておきなさい。お前が目を覚(さ)ましたとき、私のことが大好(だいす)きになっているはずだ。そして、私のために働(はたら)くことが、お前の喜(よろこ)びになる」
男が目配(めくば)せすると、部下は次の操作に入った。すると装置の音が大きくなり、つくねの身体(からだ)が小刻(こきざ)みに震(ふる)えだして、苦しそうに喘(あえ)ぎはじめた。
男は呟(つぶや)いた。「大丈夫(だいじょうぶ)だ。こいつは結月(ゆづき)の能力(ちから)を受け継(つ)いでいるはずだ。これでやっと、私の願(ねが)いがかなうことになる。ははははっ…」
部下の一人が言った。「間もなく最大値(さいだいち)に達します。装置正常(せいじょう)。何の問題(もんだい)もありません」
つくねは呻(うめ)き声を上げて、身体(からだ)を弓(ゆみ)なりに反(そ)らしはじめた。呻き声がますます大きくなると、つくねの身体から不思議(ふしぎ)な白い光りが現れはじめた。
<つぶやき>とうとう実験が始まってしまいました。どうしてしずくは助けに来ないの?
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