みけの物語カフェ ブログ版

いろんなお話を綴っています。短いお話なのですぐに読めちゃいます。お暇なときにでも、お立ち寄りください。

0726「流転の歳月」

2019-11-25 18:15:23 | ブログ短編

「何じゃこりゃ…。どうなってるんだよ。何でこんな家が建ってるんだ?」
 男は一軒家(いっけんや)を覗(のぞ)き見ながら言った。そばにいた男がそれに答えて、
「なかなか良い家だろ。三年ぐらい前かな、俺(おれ)も何度か建ててるの見に――」
「そうじゃなくて。ここ空(あ)き家(や)だったよな。俺たちがここに来たとき。だから、俺たちここの庭(にわ)にお宝(たから)を埋(う)めて…。そうだったよな。それが何でこんなことになってるんだ」
「仕方(しかた)ないよ。兄貴(あにき)は十年も入ってたからね。世(よ)の中はどんどん変わってるんだよ」
「じゃ、お宝は…。俺たちが盗(ぬす)み出した金(かね)はどうした? もちろん、掘(ほ)り出したんだよな」
「いや、そんなことしないよ。だって兄貴、言ってたじゃないか。二人の金だがら、二人で一緒(いっしょ)に掘り出すんだって…。だから俺、ずっとそのままに――」
「バカかお前は? 何でこんなことになる前に掘り出しておかなかったんだ!」
「ごめんよ。そんなに怒(おこ)らないでくれよ。そんなこと考えてもみなかったんだ」
「じゃ、掘り出すぞ。この家が留守(るす)になったとき。――地図(ちず)はちゃんと持ってるよな?」
「地図? 地図って、何のことだい?」
「はぁ? ここにお宝を埋めたときに、忘(わす)れないようにって、俺が書いた地図だよ。お前に渡しといたじゃないか。まさか…、なくしちまったのか?」
「ごめんよ、俺もいろいろあってさ。でも、これからのことは心配(しんぱい)しなくてもいいから。俺の会社で働(はたら)けばいいんだよ。俺、結婚(けっこん)してさ、かみさんの実家(じっか)の会社を継(つ)いだんだ」
<つぶやき>歳月(さいげつ)は何もかも変えてしまうのかもしれません。どう転(ころ)がるかは運(うん)しだい。
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0725「しずく60~命の光」

2019-11-24 18:10:21 | ブログ連載~しずく

 真っ暗な空間(くうかん)にしずくの姿(すがた)がただよっていた。何も見えず、何も聞こえず、そして何も感じることのない世界(せかい)。現実(げんじつ)を受(う)け止められずに、彼女が逃(に)げ込んだ場所(ばしょ)――。
 その世界に、どこからか一筋(ひとすじ)の光が差(さ)し込んできた。そのかすかな光は、しずくの胸元(むなもと)にあるペンダントの赤い石を照(て)らし出した。すると、まるで命(いのち)を吹き込まれたように、その石がほのかに赤く光りを放(はな)ち始めた。
 それと同時(どうじ)に、しずくを呼ぶ声がかすかに聞こえてきた。
「しずく…、しずく…。さあ、起きなさい。何をしているの? あなたは、あなたのやるべきことを成(な)し遂(と)げなさい。あなたなら、きっとみんなの希望(きぼう)になれるはずよ」
 その声は老婆(ろうば)の声にも聞こえ、また母親(ははおや)の声のようでもあった。だが、しずくが目を覚ます気配(けはい)はなかった。声は何度も何度も繰(く)り返された。
 ――しずくが寝(ね)かされている部屋には、柔(やわ)らかな外光(がいこう)が射(さ)し込んでいた。ベッドの方へ目を向けると、しずくの身体(からだ)がほのかな赤い光で包(つつ)まれていた。突然(とつぜん)、部屋の扉(とびら)が開いた。赤い光はその直前(ちょくぜん)に消(き)えてしまった。部屋に入ってきたのは千鶴(ちづる)だった。
「ハル…、アキ…。もう、どこへ行ったのかしら? 食事(しょくじ)の時間なのに…」
 千鶴は、しずくの顔をしばらく見つめていたが、かすかに微笑(ほほえ)むと部屋をあとにした。
<つぶやき>しずくはいつ目覚(めざ)めるのでしょうか? そして、つくねたちに魔(ま)の手が…。
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0724「思い通り」

2019-11-23 18:15:13 | ブログ短編

 とある富豪(ふごう)のお屋敷(やしき)で執事(しつじ)として働(はたら)くことになった男。執事といっても、やることといったらわがまま放題(ほうだい)のお嬢(じょう)さまのお相手(あいて)をすることなのだが――。今日もまた、お嬢さまの無理難題(むりなんだい)に振(ふ)り回され、へとへとになった男は思わず言ってしまった。
「お嬢さま、もういい加減(かげん)になさって下さい。これ以上困(こま)らせることをしたら…」
 そこで男は、どんでもないことを考えてしまった。次の瞬間(しゅんかん)、目の前にいたお嬢さまが跡形(あとかた)もなく消(き)えてしまった。男が慌(あわ)てて辺りを見回(みまわ)していると、どこからか声がした。
「お前の思い通りにしてやったぞ。これで安(やす)らかに過(す)ごせるはずだ」
 男は叫(さけ)んだ。「待ってくれ! お嬢さまをどこへやった。今すぐここへ戻(もど)してくれ!」
「それでいいのか?」声の主(ぬし)はしばらく考えてから続けた。「ならばこうしよう。お前の望(のぞ)むお嬢さまを返してやろう。今まで通りのお嬢さまがいいか、それとももっとわがままなお嬢さまにするか…。もう一つ、まるで人形(にんぎょう)のようにおとなしいお嬢さまがいいか――。さあ、決(き)めるのはお前だ」
 男は、思わず頭の中で思い描(えが)いてしまった。声の主はかすかに笑(わら)って言った。
「お前の望みをかなえてやろう。あとは、お前しだいだ」
 男の目の前にお嬢さまが現(あらわ)れた。だが、それは以前(いぜん)のお嬢さまではなかった。顔からは生気(せいき)が消えて、まるで人形のような感情(かんじょう)のない笑(え)みを浮(う)かべていた。
<つぶやき>この後、お嬢さまはどうなったのか…。わがままは程(ほど)ほどにしましょうね。
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0723「最強の呪文」

2019-11-22 18:16:56 | ブログ短編

〈ありがとう〉これはまさに最強(さいきょう)の呪文(じゅもん)だ。僕(ぼく)は二人の記念日(きねんび)はもちろん、ことあるごとにこの呪文を使ってきた。会社(かいしゃ)の連中(れんちゅう)と飲み歩いて帰りが遅(おそ)くなった時などは、どれほど助(たす)かったことか――。
 しかし、僕はこの呪文の副作用(ふくさよう)についてまったく気づいていなかった。僕はこの言葉(ことば)を連発(れんぱつ)しすぎていたのだ。いつしか心(こころ)のこもらない、ただの合図(あいず)になっていた。
 育児(いくじ)に奮闘(ふんとう)している妻(つま)が、そのことを見抜(みぬ)けないわけがない。僕の意味(いみ)の無(な)い呪文が、妻のイライラの一端(いったん)になっていたなんて。――どうやら妻の我慢(がまん)は限界(げんかい)に達していたようだ。とうとう噴火(ふんか)して、僕に手厳(てきび)しい、冷(つめ)たいひと言をあびせかけた。
「あなたって、言うだけよね。そんなこと、ぜんぜん思ってないでしょ」
 いま思えば、これが僕たち夫婦(ふうふ)のすれ違(ちが)いの始まりだったのかもしれない。この時は、小さな娘(むすめ)の笑顔(えがお)が救(すく)ってくれて、何とか事なきを得(え)た。
 あれから二十数年。あの時の娘も立派(りっぱ)に成人(せいじん)して、明日は嫁(とつ)いで家を出て行くことに…。これはめでたいことなのだが、明日から、妻と二人だけになってしまう。そのことを考えると、僕は妻とどう接(せっ)すればいいのか…。今はまだいい、仕事(しごと)があるから。でも、定年(ていねん)を迎(むか)えるまでには、何か新(あら)たな呪文を捻(ひね)り出さなければならない。老後(ろうご)の安心(あんしん)ためにも、これは成(な)し遂(と)げなければならない課題(かだい)なのだ。
<つぶやき>熟年離婚(じゅくねんりこん)だけはしたくはありませんよね。二人で共通(きょうつう)の趣味(しゅみ)を見つけましょ。
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0722「古寺百計」

2019-11-21 18:34:51 | ブログ短編

 とある古(ふる)びたお寺(てら)を訪(たず)ねた旅人(たびびと)。本堂(ほんどう)にいた古老(ころう)の住職(じゅうしょく)に声をかけた。
「あの、私、全国のお寺巡(めぐ)りをしておりまして。ある人から、このお寺は弘法大師(こうぼうたいし)が開いたものだと聞いて来たんですが…」
 住職はちょっと困(こま)ったような顔をして答えた。「そうですか…、そんな古(ふる)いお話を覚(おぼ)えている方がみえるとは…。実(じつ)はですね、それは先代(せんだい)の住職が勝手(かって)に作った話でして。見ての通り寂(さび)れた寺で、そういう話が広まれば参拝者(さんぱいしゃ)が増(ふ)えると考えて、寺の参道(さんどう)に看板(かんばん)をつけたんです。しかし、この辺(あた)りは観光地(かんこうち)でもありませんし、何の効果(こうか)もありませんでした。先代が亡(な)くなった時に、看板は外(はず)してしまいました」
「そうですか、そういう事情(じじょう)があったんですね。でも、こういう古い建物(たてもの)は今ではなかなかお目にかかりませんよ。お参(まい)りさせてもらってもいいですか?」
 住職は旅人を本堂に招(まね)き入れた。中はあちこち痛(いた)んでいたが、それなりに味わいのあるものだった。旅人は本尊(ほんぞん)の前に座(すわ)り手を合わせた。――目を上げた旅人は、本尊の脇(わき)に置かれている小さな仏像(ぶつぞう)に目が止まった。そして、まじまじとそれを見つめて言った。
「これは、まさか…、円空仏(えんくうぶつ)じゃありませんか? こんなところにあるなんて…」
 住職は首(くび)をかしげながら言った。「いや、違(ちが)うと思いますよ。それは先々代(せんせんだい)の住職が、若い頃(ころ)に暇(ひま)つぶしに彫(ほ)ったものだと聞いてますので。こんな寺に、そんな貴重(きちょう)なものが…」
「しかし、よく似(に)てるなぁ。なかなかの出来(でき)だと思いますよ」
<つぶやき>伝承(でんしょう)は時とともに変わってしまうことがあります。もしかしたら本物(ほんもの)かも…。
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