月島(つきしま)しずくは電話(でんわ)を切ると千鶴(ちづる)に言った。「じゃあ、あなたの能力(ちから)を使わせて。私たちでつくねを見つけましょ」
千鶴はうなずくと、意識(いしき)を集中(しゅうちゅう)させるために深呼吸(しんこきゅう)して目を閉じた。これは千鶴がいつもやることで、これで能力(ちから)を発動(はつどう)させるのだ。しずくは彼女の肩(かた)に手を置いた。
双子(ふたご)の姉妹(しまい)が見守(みまも)るなか、それは突然(とつぜん)起こった。しずくの身体(からだ)から赤い光が現れて、千鶴の身体もその光に包(つつ)まれていく。しばらくすると、千鶴の顔に驚(おどろ)きの表情(ひょうじょう)が浮(う)かび、彼女は思わず声をあげた。それと同時(どうじ)に、光も消えてしまった。
千鶴は目を開けると、「今のは…、なに? こ、こんなことって…」
「ありがとう」つくねは嬉(うれ)しそうに言うと、「さぁ、今度はあなたたちの出番(でばん)よ」
わけが分からないハルとアキは、顔を見合わせるしかなかった。
――神崎(かんざき)つくねが目を覚(さ)ますと、装置(そうち)で囲(かこ)まれた大きな椅子(いす)に座(すわ)らされていた。手足は固定(こてい)されていて身動(みうご)きができない。それでも必死(ひっし)でもがくつくね。あの男の声がした。
「お目覚(めざ)めかね。食事に入れた睡眠薬(すいみんやく)には気づかなかったようだな。よかったよ、手荒(てあら)なまねをしなくてすんだ」
男は窓越(まどご)しの部屋で手を振(ふ)った。つくねは、父親を睨(にら)みつけて叫(さけ)んだ。
「絶対(ぜったい)、許(ゆる)さないから。あたしは、あなたの言いなりになんかならない!」
<つぶやき>これはピンチですよ。つくねは実験台(じっけんだい)にされてしまうのか? それとも…。
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「あなたってそういう人よね。あたしが弱(よわ)ってるのに平気(へいき)で塩(しお)をすり込むようなことして」
「それは、どういう喩(たと)えだよ。俺(おれ)はやめとけって言っただろ? それを――」
「分かってるよ。あ~っ、上手(うま)くいくと思ったのになぁ」
「おまえさぁ、思いつきは悪くないんだけど、詰(つ)めが甘(あま)いっていうか…。もう少し、考えをまとめてから行動(こうどう)しろよ。そうじゃなきゃ、いつまでたっても…」
彼女は、彼を恨(うら)めしそうに見つめた。そして、それは懇願(こんがん)の眼差(まなざ)しになっていく。彼はため息(いき)をつくと、
「分かったから…。じゃあ、俺が何とかしてやるよ」
「ほんとに…? ありがとう、やっぱり持つべきものは友だちよねぇ」
「調子(ちょうし)いい奴(やつ)だなぁ。その代わり、上手くいったら俺の頼(たの)みをきいてくれるか?」
「頼み…? うん、いいよ。あたしにできることなら何でも…」
彼は、薄笑(うすわら)いをして彼女を見つめる。彼女は、不安(ふあん)な気持ちになって言い直(なお)した。
「ダメだからね。変なことしたら許(ゆる)さないんだから」
「バカか? お前に何かするわけないだろ。俺は、お前に興味(きょうみ)なんか全(まった)くない」
「何よ、その言い方…。あたしだって…、女性としての魅力(みりょく)あるのよ。あなたが、それに気づいてないだけじゃない。あたし、告白(こくはく)されたことだってあるんだから」
<つぶやき>さて、彼女はいったい何をやろうとしたのでしょうか? 彼の頼みって…。
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彼には先見(せんけん)の明(めい)があった。若(わか)くして立ち上げた事業(じぎょう)に成功(せいこう)し、莫大(ばくだい)な資産(しさん)を手に入れた。そして誰(だれ)もが羨(うらや)むような美女(びじょ)と結婚(けっこん)して、幸せの絶頂(ぜっちょう)を味わっていた。
そんな彼の前にひとりの男が現れた。その男は埃(ほこり)まみれのマントを羽織(はお)り、細長い杖(つえ)をついた老人(ろうじん)。真っ白いボサボサの髪(かみ)と、これまた真っ白な長い鬚(ひげ)を伸(の)ばしている。
驚(おどろ)いている彼の姿(すがた)を見て、老人は呟(つぶや)いた。「俺(おれ)が見えるのか? 見えるんだな」
「誰(だれ)だ? どうしてこんなところに…。ここは、お前みたいな奴(やつ)が来るところじゃない」
「気にせんでくれ。やっと俺(おれ)の順番(じゅんばん)が回ってきたんだ。さぁ、仕事(しごと)を始めるとしよう」
老人はそういうと、羽織っているマントをポンポンと叩(たた)いた。すると白い埃が霧(きり)のように舞(ま)い上がった。その直後(ちょくご)、秘書(ひしょ)の若い女が駆(か)け込んで来て叫(さけ)んだ。
「奥様(おくさま)です。奥様が――」
秘書を押(お)しのけて入って来た妻(つま)は、いきなり彼を引っぱたくとすごい形相(ぎょうそう)で言った。
「あなたって最低(さいてい)な男ね。こんな秘書にまで手を出すなんて。もう離婚(りこん)よ!」
妻は秘書を睨(にら)みつけて出て行った。秘書も取り乱(みだ)して部屋を飛び出して行く。
老人はうれしそうに呟いた。「これは面白(おもしろ)い。楽しませてもらったよ」
「何なんだ、お前は。何をした!」彼は老人に掴(つか)みかかる。白い埃がまた舞い上がった。
老人はわくわくしながら、男の耳元(みみもと)でささやいた。「さぁ、次は何が起こるのかなぁ」
<つぶやき>これはやばいです。こんなときは、気づかないふりをしないといけません。
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彼はいま、大きな決断(けつだん)をしようとしている。彼の、ペンを持つ手が震(ふる)えていた。彼は自問(じもん)した。本当(ほんとう)にこれでいいのか? そもそも、どうして彼女は僕(ぼく)なんかと――。
彼は、目の前に座(すわ)っている彼女を見つめた。彼女は優(やさ)しく微笑(ほほえ)みかけている。彼は目を伏(ふ)せた。そして、止めどなく湧(わ)き上がってくる疑問(ぎもん)の答(こた)えを探(さが)し続けた。
確(たし)かに、彼女は僕(ぼく)なんかにはもったいないくらいの女性だ。でも、本当(ほんとう)に僕のことが好(す)きなんだろうか? こんなに美人(びじん)だったら、僕じゃなくてもいいはずなのに――。
「ねぇ、どうしたの?」彼女がささやいた。「やっぱり、あたしなんかじゃ…」
「いや、そんなこと…。でも、どうして…。式(しき)の日取(ひど)りも決(き)めてないのに…」
「あたし、ちゃんとした確約(かくやく)が欲(ほ)しいの。いいでしょ? あたしたち、結婚(けっこん)するんだから」
「そうなんだけど…。でも、これは、今じゃなくても…」
彼女は表情(ひょうじょう)を曇(くも)らせて呟(つぶや)いた。「あたしのこと、好きじゃないんですね」
「そ、そんなことないよ。僕は、キミ以外(いがい)は考えられないんだ。でも、キミは…。本当に僕なんかでいいのかい? 本当に、僕のことを好きでいてくれるのか…」
「あたりまえじゃない。あたしも、あなた以外は考えられないわ。あなたしかいないの。あたしが好きなのは…、あなただけよ。さぁ…、ここに名前(なまえ)を書いて」
<つぶやき>この言葉(ことば)の裏(うら)には何が隠(かく)されているのでしょう。恋の駆(か)け引きの最終章です。
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彼は、仕事(しごと)に追(お)われていた。忙(いそが)しすぎて、付き合っている彼女と会う余裕(よゆう)もなかった。もう何日も連絡(れんらく)をとっていなかったことに気づいた彼は、彼女にラインでメッセージを送った。だが、どういうわけか返事(へんじ)が返ってこない。送ったメッセージも既読(きどく)にならなかった。
彼は電話をしてみた。何度もかけてみたが彼女が出ることはなかった。彼は心配(しんぱい)になった。そこで、仕事を何とか早く終わらせて彼女のアパートへ行ってみた。
部屋から出てきた彼女は、彼を招(まね)き入れるでもなく、「何で、来たのよ」と素(そ)っ気(け)ない態度(たいど)。彼は、
「ごめん、ずっと忙しくて連絡できなかったんだ。だから…」
「あの、私たち、もう、そういう関係(かんけい)じゃないよね。私は、別(わか)れたと思ってるんだけど」
「えっ…、何で? 僕(ぼく)たち、別れてなんかいないだろ?」
彼女は冷(さ)めた口調(くちょう)で答えた。「だって、私のことなんかどうでもいいんでしょ。もう来ないでください。私のことは忘(わす)れて。私、もう何とも思ってないですから」
「えっ、何でそうなるんだよ。ちょっと連絡できなかっただけなのに…」
「それと、二度と連絡してこないで。ほんと、迷惑(めいわく)ですから」
「ちょ、ちょっと待ってくれよ。そ、それはないだろ? いくらなんでも…」
彼女はドアを閉めた。そして鍵(かぎ)をかけると、ドアの向こう側(がわ)の彼に言った。
「私、付き合ってる人がいるの。ここも引っ越すから…。さよなら、元気でね」
<つぶやき>どうしてこんなことになっちゃったの? 何がいけなかったんでしょうねぇ。
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