キ上の空論

小説もどきや日常などの雑文・覚え書きです。

冬のとなり

2016年01月16日 | リハビリ企画
 洗い物をしたら袖に水が染みた。捲っても落ちる仕様だから仕方がない。もうしばらく過ぎたというのにまだ水気はある。あとどのくらいで乾くだろう。分厚い水色は、もらい物の上っぱりだ。寒いから作業をしないときも着ている。どちらかと言えば、日常に近いもの。
 非日常に近いものも身の回りにはそこそこある。すべてを受け取るには脳の処理能力が追いつかずにそうなっているもの、実際に遭った非日常の記念品。
 何を日常とするかは人次第だろう。体を別の何かに変換する日常を過ごしていた者はそう多くない。外観はそれとわからず何度も死にかけたので、佐方の妻はうたた寝する夫の心音を確かめる癖がついた。そうして妻が触れてくるのが嬉しくてつい、佐方にはソファでうたた寝する癖がついた。
 一仕事終えてソファに向かうと先客があった。当然、妻以外にないのだが、佐方を待ち構えているうちに眠ってしまったらしい。
 ふと思いついて、佐方は妻の背に耳を当ててみた。温みが意外と心地よかった。

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予告嘘の突発書き短文。
暖房器具の充電が終わる前に書き上げたかったのですが、そうも行きませんでした。おやすみなさい。
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あれ?

2016年01月11日 | リハビリ企画
 ボタン操作を間違えたらしい。
 クリックの直前に読み込みの終わった画像がその位置を変えさせるように、ボタンを押した瞬間に近いタイミングで、ボタンの表す意味が変わった。
 私は何を書くつもりだったろうか。目的と場所が変われば、書くべき内容も変わる。
 一応、セキュリティソフトを確認する。それなりに働いているようだ。

 物語は暖めなくて良いらしい。どうせ書いていくうちに変わってゆくものだ。しかしながら、毎日の更新ができるほどの分量は急に出て来はしない。
 時間稼ぎをするのも良いかと言っているうち、更にその時間稼ぎが必要になってくる。目的はどこへ行ったやら。
 まとめる前の雑な文章を上げた方がまだマシな気がしてきた。
 どこをどう修正したかを書いてしまうと読みにくいだろうが、どれだけ無駄に時間がかかるのか、文章にも下書きと清書があるとわかるのも良いかもしれない。更に修正を重ねて発表したりしなかったりする。人物描写や背景描写をほったらかしすぎなのは二次創作でない限りは要注意点。多分くどくなるから書かないだろうけど。名作を書いてやろうと気取るのはできる人に任せておいて、趣味で書くものに好みでないものをとやかく書かなくて良いだろう。キャラクターを名前以外で区別できる程度には、なんやかんやあった方が良いとは思う。

 書くつもりだった、ではなかった。こいつを何とか吐き出さないと、とにかく落ち着かないのだ。別の文章など打っている場合ではない。こいつだと思ったのだからこいつだ。他の何かではない。もののついでのように全く別のところから勝手に主張をはじめるだろうから、今こいつと思うものを書けば良い。まとめるのは後からでも。多分原型がなくなるけど。
 あんまり放っておくと出番はまだかと待ち体勢のまま動かなくなってしまう。
 三週間くらいかけて文章を打つ生活に慣れようなんて、ぼんやりしている場合じゃない。

 どうも、思ってもみないところのスイッチが入ったようだ。

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鉄は熱いうちに打てと先人が言ってましたねえ。
そんなわけで横線とか(←ここ削除)とかが入った文を明日から晒してみます。一日では打ち切らないので、何日かに分けるはず。
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きみのなまえ

2016年01月10日 | リハビリ企画
 名前を決める作業はいつも難航する。登場人物の方から「違う」と言ってくることもしばしば。話が動き出す前からそんなに生き生きと動かれても始末に負えなくなるだけだ。
 女子高生だった頃は、しばしばなんて日本語をoftenの訳語以外で使うことなんてないと思っていた。そう言えば、文化の違いからちょうど良い訳語が見つからなかったときのカタカナ音訳には当たり外れがある。雰囲気に合わせてどの国の言葉でカタカナ語にするか決めて欲しいものだ。
 音訳と言えば、babeはベイブと読むのにAbeはアビーになる英語がわからない。
 とりとめのないことを考えながら、線を引いていく。
 この顔はちゃんと思い描いたとおりの「この子」だろうか。所作は、服は、骨格は。
 線を増やしたところで他の絵が同じように描けるわけでもなし、最初の設定画だけ気合いを入れすぎてそのまま蔵に入った子も何人か。
 ちょうど良い名前があれば、それなりの子になるはずだ。そう思って、いつも名前で行き詰まる。

 しあわせな将来を勝ち取るために生まれたあなたに聞きたい。あなたの名前は何ですか?
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赤い

2016年01月09日 | リハビリ企画
 罪状が何だったか、記録にすらない。
 私刑に近い理由だったので、秘密裏に。
 事情を聞けばそういうことだ。
 ディナの処刑が決まったのは、新しい教務官長の気まぐれであるらしい。
 権力争いの余波で、前任者の縁者が理由らしい理由もなく殺されることがある。話には聞いていたが、まさか自分が当事者になるとは思っていなかった。結構うまく立ち回っていたつもりだったのに。
 前任の教務官長シオン・キシュ・リシオンが神殿を追われて、蟄居同然の生活を送るようになってからわずか数日。
 死人の数は二十を超えた。
 処刑部屋は魔導兵器の実験室でもあった。
 床は随分と血が染みているらしく、掃除の意味を疑う色になっている。
 ディナは混乱していた。
 リシオンの縁者で最初に死んだのは娘婿のトリ・ライシュ・イツトウだ。
 その時はまだリシオンが教務官長だった。彼を神殿から追い出すために、力を殺ぐ必要があった。イツトウの死はその最初の一撃。
 イツトウは、ディナの友人だった。
 イツトウは、ディナが殺した。
 魔導神官が三人、刑吏が五人。
 ディナを貫くはずの光は、神官の手から放れた瞬間消えた。
「貴様、邪魔をするか!」
 魔導神官が宙に向かって叫んだ。
 刑吏がすかさずディナを拘束する。
 彼らが警戒するまでもなく、ディナにはそんな力はない。
 何一つ浮かばない。
 頭の奥がどこかに抜け落ちたみたいだ。
 目の前で踊る粘着質を見ながら、ディナは抵抗を諦めた。身体を拘束するいくつもの手が、その分だけ皮膚に食い込む。
 神殿の奥で生まれた、女神のためにと作られた、赤い化け物。
 いくつもの手と目を持つ異形。
 ただ喰うために殺す。
 ただ殺すために在る。
 化け物が口を開ける。このまま飲み込まれたら、何になるだろう?

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昔書こうと思って頓挫した話の冒頭部分のコピペ。
行方不明になったCDの捜索に時間をかけたくなったので。
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ご先祖さんとの遭遇

2016年01月08日 | リハビリ企画
「星を動かそうとすると寿命をなくすって、ちゃんと書き残しといたのに、ばかね」
 罵倒の言葉ではあっても、口調だけは柔らかい。
 確かに消えないように、つぶれないように、それだけは伝わるようにとそこかしこに警告として残されていた文言だ。
「こういう意味だとは思ってもみませんでした」
 不老不死。もしかしたら憧れる者もいるかもしれない。ただの長い孤独と似た意味でしかないものではあるが。
 シャール家の者とわかる出で立ち。外見は妙齢の女性だが、決定的に色気を感じない。体型にメリハリがないとか、女性らしさがないとかそういうことでなく。わからないものが見ればすこぶる魅力的に見えるだろうが、人を越えてしまっている部分がそれとわかる者には最初から無理物件。
「残念ながらそういう意味よ。死にたくなったら粉微塵にしてあげるから言って頂戴。死ねなくても風と土くらいにはなれるでしょ」
 外見に合わせて出で立ちと口調を作ってはいるが、内実の性別はないとうちの先祖が書いていた。
「痛み入ります。そのときは是非」
 大魔導アッシェズローズ。確か、人としての名前はラティーナ・ルイーカ・シャール。
 最初に破壊神を封じた八聖の一人。
「リデュ・ノナって、ご大層な名前ね」
 予言師でも何でもない、見えたものを語るだけ。変えることはできない。異名は変に重たい。
「汗顔の至りです、アッシェズローズ様」
 丁寧に名を呼んでから自分の体を見下ろす。
「生きていること自体がその人にとって災厄なら、効果ないわよ」
 アッシェズローズはあらかじめ認めた者にしかその名を呼ぶことを許していない。うかつに呼べばちょっとした災厄とともに命を落とすと……伝承通りなのに、伝承通りじゃないのか。
「ラスケス、ここは私が居住地として使っているの。他に行って頂戴」
 狭間の空間。別の世界への扉の中とも言うべきか。
 他人のいない場所を求めたら、たまたま偉大な先達がいたというだけ。
 名乗りもしないうちからこちらの名を呼んだと言うことは、同じように見える人なのだろうか。
「承知しました。ご先祖様、立ち去る前にいくつか伺いたいことが」
「子はいないわね」
「ナナ女王は、そんな感じで良いって書き残しておられましたが」
「じゃあいいわ」
 いいのかよ。
 ともかく、古い文献を漁っといて良かった。
 ナナ女王は日記がかなりの割合ででエロ小説だが(そう読めないように書いているつもりなのはわかる程度で)、本名がわからない。夫のフィルバートは今では俺の嫁という意味でしかない言葉で書き残していて、名を隠す人と言うことは、つまり。
「ナナ女王は竜人だったのですか?」
「そうよ」
「ご存命でいらっしゃるのでしょうか」
「知らないわ」
「ご友人だと」
「そうね」
 声はいちいち素っ気ない。
「ラスケス、竜人にも寿命はあるのよ」
 微笑みは他の疑問を打ち消した。一番聞いてはいけないことを一番最初に聞いてしまったようだ。
「人は自分の理解や共感が及ばない人や部分に対して、おそろしく残酷になってしまうことがあるんですって」
「うちの先祖が言ってたと書いてましたね」
「フィルバートにとっては、一応、人みたいなのよね、わたしでも」
「個体名:アッシェズローズ、種族名:ラティーナと分類しているようだとナナ女王は書いていましたが」
「サナルドだって種族名:聖王だったもの」
 記録を読んでいてうすうす感じてはいたが、うちの先祖もだいぶおかしい人だったのはまあわかる。
「その友人の夫として認めたうちの先祖にえげつない薬盛ったって記録があるんですけど、その話ですよね」
 夜這う友人の後押しとして。
 鋼鉄の理性と裏で呼ばれていた先祖が(比べれば鋼鉄の方が柔い気がする)その事実を聞いて思わずアッシェズローズの首を絞めかけたと。
「そんなにひどかったかしら」
「原材料の羅列見ただけでえぐいの丸わかりです」
 記述は塗りつぶされていたが、読める者には読める仕様になっている。
「だって、一発勝負みたいなものだったし、思い切っていいかなって」
「思い切りすぎです。一部の裏家業で今も現役で拷問に使われています」
「ちゃんと塗りつぶしたのに」
 あんなの盛られて目の前のご婦人を説得して家に送り届けるなど人外の所業だ。送り届けたご婦人の方が実際には人外だったわけだが。
「そういうのは好事家が全力で解析するんですよ」
 残念ながら、そういうものだ。
「一応反省しておくわ」
 少しの反省したそぶりもなく、伝説の大魔導はうなずいた。
 余計な質問をした分は取り戻せたろうか。
 色々踏ん切りがついたら、粉微塵にしてもらいに来るとしよう。
「それでは、別の場所を探しますので、ごきげんようご先祖様」
 入り口が思い出せるうちに片付くと良いのだが。


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タイムアタック敗北。日付をまたぎました。
アッシェズローズとナナはそれぞれの魔女っ子ネームみたいなやつです。
フィルバートはモノローグでナナを妻と言っていますがサイと読んでねって昨日書き忘れました。また頭の中ではラティーナですが、呼ぶときはちゃんと「アッシェズローズ様」です。うっかりでラティーナ呼びしたことはありません。
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わかってない

2016年01月07日 | リハビリ企画
 ラティーナは、自分に興味がないものを好む。
 どこかが突出していると、その分どこかが欠損しているとはよく聞く話。自分にとって必要なものと、そうでないものを実に簡単に選り分ける。
 ランファの王族のなかでは未婚の高齢女子に属する。婚姻に関しては、本人にその意思もなければ、実質見合う相手もない。
 年齢が近いことからそういった話が届きだした頃、妻に夜這いを勧めたのは他ならぬラティーナだ。妻には、身分の高い妙齢女子が夜這ったことが知れると、どれほど外聞を傷つけるかを説明した後、こちらから順を追った。考えるまでもなく、他にちょうど良い年齢の、ちょうど良い身分の男がいなかった。
 年上過ぎるとどうしてもラティーナを甘く見る、年下には敬遠される。女だと思うとどうしても持て余す、王族にしておくには実利に寄りすぎる。しかし、旅に出たのは本人の意思だ。その不在に城ではおそらく難儀している部署がいくつかあるだろう。なぜ破壊神を封印しようと思ったのか問えば、「早めに片付けた方が、ナナも嬉しいでしょ」と。妻か。
 あまり好かれていないようだが、警備対象なので近くにいることが多いのは仕方がない。
 元々シャールとマーキュルは姻族だ。どちらかの力がもう片方から出ることもあるだろう。魔道の星を負いながら破壊神に対抗しうる魔力を併せ持つとか、運命の星の守護を受けたと言われつつ竜剣を扱えるような混ざり方もするようだ。鎧の類いは身につける必要がないときは窮屈だから持って来もしないが、剣は竜に認められた証だとかで置いてきてもついてくるので(方法は様々だ)持ち歩くことにした。
 フェイ・ルファースは「ラティーナは中におっさんがはいっている」と言う。もう少し言いようがあろうものを。フェイの言う「おっさん」はダルダよりサナルドが近い。年齢ではない、敬すべきものという意味を多少含んでいるらしい。
 サナルドは「どこかで別の国を興すことがありましたら、是非お供を」を不穏当なことを言ってのけた。子息が好きすぎて、自分がいると子息が国に城にいづらくなるからと、帰るつもりはないようだ。ラティーナが本気にするとかなり面倒なことになるのでこちらの方で先にお断りした。
 旅も長くなると、互いと別れがたくなるものだ。「早めに片付けた方が」確かに良いようだ。


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運命の星の作用がまだわかっていない頃。そしてやはりオチませんでした。
好感度MAXが100として、初期値50くらいの人(ただし振り切れた連中に限る)。ナナはどんな人だったのかって、ラティーナの友人やってたくらい……。城の方は大丈夫だったはず。ナナ一人でもだいたい大丈夫なはず。
初期値からあまり変わらないラティーナが嫌ってるんじゃなくて(恋敵だから)、他の人がおかしいことがわかってない。
出会ったその日に虹野さんの右目がドライアイになるくらい好かれることもあるとかないとか(若い人置いてけぼりのたとえ)。
ラティーナはチートキャラなので子孫がいません。
竜剣にものすごく好かれていることに気づいた子孫は何代後やら。
それにしてもラ行が多いネーミングだこと。
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くらい

2016年01月06日 | リハビリ企画
 サナルドは彼の国で闇色を意味する言葉らしい。本名ではないものの、髪と目の色と一致しているためか、さして他の名で呼ぶ必要もない。
 夜の中にいても、空よりその色は濃い。
 寝付けずに散歩をしようと宿の外に出たら、見回りついでにそれとなくついてきた。
 成り行き上、王族貴族ばかりが一行に名を連ねている。力は負債に通じる。破壊神を封印するために創造神が残したものを、たまたま手に取った祖先がいたらしい。結果地位を得て、結果その借りを返すために世界中を回ることになった。借りたのは自分ではないが、誰かが返さないと文字通り丸ごと滅ぶ。一族の者が平穏を取り戻したとなれば、国に残った(面倒ごとを押しつけたとも言う)連中も喜ぶだろう。もののついでに死んでくれれば、なおのこと。
 サナルドの国の色は鮮やかな青だ。王と近衛は、特徴のある肩の部位が大きくなっている青い鎧をまとって戦場を駆ける。しかしながら、一行でまじめに甲冑を装着しているのはダルダ・ロナシアただ一人。ランファ王家にしか許されていない首・腰・袖に特徴のある布を使った活発に動くのに適さないドレスを着るラティーナも大概だが(これっぽっちも忍んでいない)、羽織っている打掛が目立ちすぎるランも充分おかしい。最初は王女の護衛として簡易ではあっても武装していたフィルバートも一応武器は持っているというくらい。けったいな髪と目の色の自分を含めると、外観がちぐはぐすぎて目立つことこの上ない。
 その中にいて、一人だけ地味な出で立ちをしているから却って目を引くらしく、一行に用件のある者はまずサナルドに声をかける。
 正装をしていれば、おそらく一番話しかけにくい雰囲気をそれだけで身にまとうことは想像に難くないのだが。
 だいたいちょうど話しかけやすいところに、話しかけやすそうな顔をしている。
「そんなに地味か」
 サナルドは良く見れば仕立ての良い服をまじまじと見る。
 俺は自分の口許に手をやった。特に他に集中の要るものはないから、開いてはいない。
「言っておこうと思っていたのだが、機を逸していた。だいたいのことはわかる。そういうのが付随する者も中にはいるようだ」
 これはアレだ。手短に説明しようとして色々抜け落ちすぎて却ってわかりにくくなってるやつだ。
 サナルドは眉間にしわを寄せて考え込んでしまった。
 知ってた。このおっさんは色々タイミングが良すぎる。時々要らんこともするが、他の連中にとってはありがたくもあるはずだ。だから。
 知っているはずだ。俺は破壊神との戦いでそこそこ役に立ちつつ死ぬために国を追い出されてきたと。人間の体に先祖返りのように現れた力はどうしても合わない。
「これはヴァーヴェイン王から借りたものだ。返しに来いと仰せだった。私は」
 服の話に遡った。意図しない感情の返りでもあったのか、また止まる。
「誰かに力を使わねば、無駄に丈夫に生まれた意味もないのだ」
 聖王は守護神の、邪王は守護魔の影響がそれなりにあると言うが、どんな守護神がいたらこんなのができるんだか。
 丈夫に無駄なんてない。そこにいるだけでと言われる立場なら当然。
「守護神はいない。刑死したと聞いた。だから邪王と守護魔を倒せと意味のわからないことを言ってきた神族の誰ぞかは、大陸から放り出した」
 わからなくはないだろう。神族と魔族の力の均衡を図りたい、でもちょっとだけ自分の方を有利にって話だ。原因が自爆ならバカもいいところだが。
「神族の言うことはわからないが、君の言いたいことはだいたいわかる」
 理解不要。最初の聖王に本気で斬られたのか。あと二人の聖王を同じようにこじらせたら神族終了のお知らせ。
「君の先祖に切られるだけのことはある連中だったということだ。彼らが伝承の通りの存在ならば、今の君の状態を解決するのに何の記録も、方法も残っていないはずがない」
 それはいくら何でも夢を見すぎというものだ。
「聖王は辞めた。が、力は残った。ならば他の仕事を探すしかあるまい」
 大まじめに言っているが、辞めて良いものと辞められると大変なことになるものがあって、これは後者。
「守護神もいないのでは名も役に立つものか怪しい。きっぱり辞めると決めた方が、良いものもある」
 言葉が含む別の意味が、ようやく届いた。
「人の心は読むのに、伝えるのはあんまり上手くないんだな」
「よく言われる」
 考える時間くらいはもう少し稼げそうだ。
 極彩色にゆがんだ遠い空が、明日の目的地。


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時間切れでした……。フィルバートの名前を忘れて過去の資料を探すのに時間がかかりました。
四半世紀前の自分に記録はしっかりしてくれと頼みたいところです。
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はずれ

2016年01月05日 | リハビリ企画
 四つの星がマーキュルを巡る。
 巡りのたびに、誰かがその星の下に生まれる。
 ひとつは、運命の星。封印の解けかけた虚無神を何とかできそうな者たちが自動的に周りに集まる。
 今ひとつ、名誉の星。良かれ悪しかれ振り切れた連中に好かれやすい。
 そして、魔道の星。生まれ持ってあらゆる魔法を使うことが許されている。使いこなせるかどうかはともかく。
 重なることもある。ただ、それぞれの効果を打ち消し合うことはない。
 星の<守護>は、世界に虚無神を置いていくのと引き替えに、人間に与えられたものだ。
 その中に、厄介なのが、ひとつあった。
「非業の星って何だよ」
「モテないとか」
「水だけで太るとか」
「どんだけ頑張っても家督は継げないとか」
「大概死に様がひどいな」
「武芸に優れていると、割としょっちゅう死地に送られる」 
「知識はあっても知識バカが災いして酷たらしい暗殺されぶり」
「賢い奴いた?」
「魔道の星と重なった奴いたよな、死ねなくなったんじゃなかったっけ」
「それ別の奴」
 先祖を奴呼ばわりするほど、マーキュルでも非業の星は忌まれる。
 かつては破壊神と呼ばれた虚無神がその表記を変えたように、非業の意味づけを変えることは叶わなかった。
 巡りは五百年に一度という。古い記録は書き写しの書き写しの書き写しでしかないものもいくつか。それすらない先祖もいる。
 マーキュルの巡りに近い五人が、日々文献と格闘しながら、誰の元にどの星がと頭を集めて悩んでいる。
 聖王と邪王は神族と魔族の存続の是非を問う審判を五回行うものとされ、巡りと虚無神の封印の緩みはそれと同時に起こる。
 それぞれ六人目の聖王と邪王であるキリン・シーヴとシリン・シーヴが、「せっかく生き残ったならそのままいたっていいじゃん」と最初の王から合わせて五回目の結論を出したのは五百年前。
 マーキュルの治める国ツァイランファで合議制が始まるまで、あとほんの数年。
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キリンとシリン

2014年12月07日 | リハビリ企画
 思いがけないところから出自を知ることもあるらしい。互いに半分にし合ってきた傷や感情が、血を意味するとは。
 もはや残滓に過ぎない信仰と、全く実感の伴わない伝承が、この期に及んで降りかかってこようとは。
 すでに審判は下された。存続を問われているものは既にない。<拒絶する者>は予定通り拒絶し、<受容する者>は予定通り受容した。そうなるようになっていた。
 ならば、その<審判>という役割は何なのか。戦いに巻き込まれてきた結果、大本とは遠く離れた地で、途方に暮れる子孫がいること想像する者はなかったのか。
「根絶されたわけではない、暗黒神の心故に我らは生き残った。今、問われているのはそれだ」
 受容と怠惰。創造神の片割れである暗黒神が司るもの。光明神はそれをも拒絶する。
「それで」
「君は」
「「どちらを連れて行くつもりなのさ?」」
 残ったもう一方の引き取り手らしい異種族がその後方で居心地悪そうにしている。
 同じ顔、同じ声、同じ背丈。どちらでもないが、より女に近いのがキリンで、男に近いのがシリン。
 どちらかが神族の存続の是非を問う審判である<聖王>、どちらかが魔族の存続の是非を問う<邪王>。
 魔族とか、邪王とか禍々しいネーミングなのは、堕落寄りだから、らしい。心持ち緩い方と思っておけば良いだろう。戻るのは難しいが、あらゆる種族が比較的楽な方法で魔族に転化できる。
「どうしたら良いと思う?」
 かつて海の向こうの大陸を統べた覇王は、神族を消し去ろうとする力に伴う大破壊から、大陸の4分の3を守って姿を消した。
 そんなのが始末に困った箱入りの小動物みたいな顔をしていると言って、信じる者はあろうか。
「いっそのこと4人で旅でもするか?」
 シリンは顎で後方を指し示しながら、元覇王に問うた。
「その必要があるかどうかもわからない」
 神族の生き残りは振り返りもせず、緩やかに提案を除けた。
 こいつ、面倒くさいやつだ。
 双子の見解は一致した。
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