日曜日
膝の抜糸まであと少しだ。
それまではと、山登りはおろか、散歩なども控えてきた。
とりもなおさずそれは、暇で暇で仕方がないと言う事でもある。
仕方ないので、何となしにスマホをいじっていたら、
おや?
SNSのタイムラインに流れてきたのは、住宅展示場の朝市に出展している後輩の様子である。
「おい、ちょっとアイツを冷やかしに行くぞ。」
会場には幾つかのテントが立ち並び、それぞれで、パンや野菜などが売られていた。
所謂、展示場の集客キャンペーンの一環である。
後輩は奥さんと二人、会場のド真ん中付近にテントを広げていた。
この後輩。
海外の権威ある紅茶コンテストで、二つ星に輝いているヤツなのだ。
当然、紅茶を始めとしてズラリとお茶が・・・
何でカブト虫売っとる!
建物の中に入ってみた。
漆喰や和紙など、和のテイストあふれる造りとなっていた。
天井照明の飾りは大川組子である。
吹き抜けには、キャットウオークを模したような、簀の子の渡り廊下も。
遊び心もあって、中々面白い。
30分ほど滞在した。
野菜やお茶なども買ったし、
「ぼちぼち帰るぞ。飯でも食って帰ろうか。」
直ぐ近くにあるうどん屋さんに入った。
私が注文したのはニシン蕎麦。
好物の丸天も追加でトッピングだ。
ニシンそばが好物なのかって?
全然。
むしろ嫌いである。
そもそも、甘い味付けのトッピングが、好きではないからだ。
だが、長い事食べて無いし、もしかしたら、好みが変わったりしてるかも知れないではないか。
そんな、チャレンジ精神のような物が、沸々と沸いてきた結果なのだ。
さてここで、
話を10年程前に遡らせたい。
家内と一緒に京都観光をした時の事である。
清水寺界隈だったか、観光の合間、土産物屋兼食堂で昼食を食べる事にした。
生憎と込み合っていて、上品そうな老夫婦との相席を指示された。
「何にしようかな。ニシン蕎麦って美味しい?」(家内)
「全然美味しくなか。そんなもん頼むの止めとけ。」(私)
私は自信満々にそう答え、違うメニューを強く勧めた。
そうこうするうち、先に席に着いていた老夫婦に料理が運ばれてきた。
「ニシン蕎麦お待ちどおさま~。」(店員)
血の気が引くとはこの事である。
この老夫婦は、目の前の相席相手が『不味い』と罵倒した蕎麦を、見ている前で口に運ばねばならぬ。
こんな気の毒な事など、滅多になかろう。
なんて事を言ってしまったのだ。
悔やんでも悔やみきれないが、後の祭りである。
私達は一言もしゃべらずに、ずっと下を向いたまま、この呪われた時間が過ぎていくのを待つしかなかった。
閑話休題
そんな苦い思い出と共に、ニシンを頬張る。
モグモグ
ふーん。
やっぱ、どーもね。