もこがいなくなってしまったリビング。
あーしてやればよかった。
こうしてやってれば、もしかしたら助かったのではないか。
後悔の念に苛まれ、ため息ばかりついている。
悔やんでも仕方ないのは分かっている。
が、自分でもどうにもできないのだ。
これではいかん。
どうかなってしまいそうだ。
山にでも行って、少し気分を変えてみるか。
「明日、山に行ってくる。」(私)
「あ、私も行く。」(家内)
どうやらヤツも、思いは一緒のようだ。
家内は冬のくじゅうに登った事が無い。
「天気は悪かバッテン、霧氷だけはどっさり見らるっぞ。」
「ムヒョー!」
ヤツの下手なダジャレを聞きながら、牧ノ戸登山口から出発である。
登山口から続く、だらだらとした傾斜の登山道。
早くも霧氷のトンネル出現だ。
沓掛山到着。
三俣山や星生山方向は分厚い雲に覆われている。
西千里まで歩いてくると、星生山の上に少し青空が見えてきた。
無言でついてくる家内。
「はあーー。」
「・・・・・」
出るのはため息ばかり。
私も同じである。
山を歩いていても、もこの事が頭から離れないのだ。
ゴジラの背中が見えてきた。
晴れてきたぜ!
こうこなくっちゃ。
星生崎と久住山。
星生崎直下のガレ場を越え、
避難小屋到着。
ちょっと休憩するか。
インスタントコーヒーをカップに注ぐ。
このままずっと飲まないで、暖房器具として手を温め続けたい。
「おっちゃんは寒さには強かけど、手だけは弱点やもんね。ケケケ」(家内)
そうなのだ。
寒さには滅法強い私だが、手の指先だけは、人一倍悴みやすくできているのだ。
避難小屋を出たら、あろう事か、辺りは一変していた。
すっぽりとガスに覆われてしまっているではないか。
風もかなり強い。
稜線などでは時折、体を持って行かれそうなくらいだ。
天狗ヶ城。
この分だと、山頂は相当な風の筈だ。
寒さも半端無かろう。
家内を連れて登るのは、止めておいた方が良さそうだ。
「御池を歩いたら、引き返すぞ。」
御池到着。
冬のくじゅうを知らない家内は、当然ながら氷結した御池を知るよしもない。
くじゅう連山冬の風物詩、御池氷上歩きをさせてやらねば。
しっかりとアイゼンを用意させてきたのは言うまでもない。
岸辺には割れた分厚い氷が、乗り上げている。
池面から、氷が浮き上がっている。
こんな現象、どうやって起こるのだろうか?
何とかアイゼンを付け終わった家内。
おっかなびっくり、池の中央まで歩いてきた。
暫く氷の上を歩いたりしていたが、何しろ風が強いし、寒い!
「引き返すぞ。」
「お、おう!」
牧ノ戸まで降りてきた後は、長者原へと車を走らせた。
長者原レストハウスで、一杯のコーヒーを飲み、ホッと一息である。
その後は、レストハウス内のモンベルショップを覗いてみた。
「帰りはどげんする?高速は使わんで、下をゆっくり帰るか?」(私)
「・・・うん。」(家内)
今まで二人で外出した時は、家に置いてきたもこが寂しがっているだろうと、いつもどこにも寄らず急いで帰ったものだ。
ゆっくり帰ってもいい現実。
そんな変わってしまった日常を思い知らされ、またしてもため息をつく私達である。