10月24日
乗鞍高原駐車場にて。
重たい雲が覆いつくす空の下、登山準備である。
そう、この日目指すのは乗鞍岳だ。
3000m越えの山であるにも係わらず、標高2700mまでシャトルバスで登れて、気軽に百名山を楽しめる山なのだ。
前日に続き、なんちゃって登山第2ステージの始まりだ。
「畳平到着です。尚、登山のお客様に申し上げます。稜線からはアイゼンが必要です。」(添乗員)
え!
そんなん、バスに乗る前に言ってよ。
山岳パトロールの女性がいた。
念のために、その件を聞いてみた。
「そうですね。頂上付近は一旦雪が緩んで、また凍っている箇所がありますね。アイゼンが無いと厳しいかも。」
そんなあ。
アイゼンなんか、売店にも売ってないし。
ちぇ、しゃあねえ。
行けるところまで行くさ。
鶴ヶ池を横目に見ながら出発である。
富士見岳通過。
不消池通過。
背後は摩利支天岳。
頂上付近に建てられた天文台は、自然科学環境機構乗鞍観測所。
太陽のコロナ観測をしているらしい。
この時、一瞬だけ霧が晴れてきた。
眼下に雲海の広がりが。
「わーい!」
ひと際高いピークが、目指す剣が峰である。
手前が肩の小屋。
奥の赤い建物は、東大の宇宙観測所である。
宇宙観測に関する施設が二つもあるのは、3000mの高地であるのは勿論、
交通の便が良い事に依るのは間違いなかろう。
ちょっと小屋の中を覗こうとしたら、ベンチで休憩していたご婦人が、
「無人ですよ。さっき、管理人ご夫妻は、上に登って行かれました。」
恐らく頂上小屋の準備ではなかろうかとの事。
ここまで、人影を全然見る事が出来ず、少々心細い思いをしていたが、頂上付近には人がいる事を知り、少しホッとする。
肩の小屋を過ぎると、施設への取り付け道路が終わり、本格的な登山道となる。
同時に積雪量も深くなってきた。
再び、霧が濃くなってきた。
朝日岳通過。
この時、カエルにも似た鳴き声が。
「あ、今、聞こえた。」(家内)
「うん、俺も聞いた。でもこの霧じゃ見つける事は難しかぞ。」(私)
私たちが希望的観測も含めて、推測している声の主とは・・・
雷鳥である。
いや、雷鳥であってほしい。
つけられたばかりのトレースに従い歩く。
この様子では、雪は深いものの、凍結の恐れは無いのではなかろうか。
「多分、頂上もアイゼン必要なかぞ。」(私)
「だあいじょうぶって。」
丁度、男性が上から降りてきた。
頂上付近の様子を聞いてみた。
「アイゼン?いや、必要ないですよ。」
ほーらね。
蚕玉岳通過。
風が物凄い事になってきた。
あまりの寒さに、フードを被って歩く事にする。
だがしかしである。
この風が後ほど、天祐をもたらす事になろうとは。
頂上小屋が見えてきた。
「寒かけん、休憩なしで山頂まで行こう。そんで、頂上はとっとと降りて、ここで休むぞ。」(私)
「うん。」(家内)
この岩場を上り詰めた先が山頂である。
山頂。
ここで信じられない事が起きる。
折からの強風で、見る間にガスが取れていき、
青空が広がってきたのだ!
あ、これは一応ね。
ルーティンだから。
大日岳方向。
360度の雲海と、遠くその上に頭を出す名峰群。
登ってくる時は、ガスで存在すら分らなかった権現池も、今は、はっきりと目にする事ができる。
何処の山並みだろうか。
山名が分れば、さらに感動も深くなるのだが。
あ、これだけは分かる。
穂高連峰だ。
「バンザーイ!!」
二人して万歳三唱したのは、仕方なかろう。
とっとと降りる筈の山頂だったが、寧ろ、いつもより長い滞在時間となってしまった。
名残は尽きぬが、寒さも寒さだ。
山頂小屋へと降りる事にした。
暖かいコーヒーが、冷えた体に染み渡るぜ。
山小屋ご夫婦と、色々とお話をさせていただいた。
「あ、多分鳴き声が聞こえた辺りだ。わかった。そうするよ。記念にそれとそれ頂戴。」
祈りを込めて山頂小屋で買った、雷鳥の手ぬぐいとマスコットである。
何か買うと、登山証明書を出してくれる。
山小屋を降りる頃になると、途端に霧が立ちこめてきた。
今日の山登りの運の強さはどうだろう。
この分では・・・
山小屋のご主人が教えてくれた辺りまでくると、何度か、雷鳥の飛んでいるのだけは確認出来たが、
いずれも遠すぎて、ハイマツの茂みに隠れられると、その姿を見る事は不可能である。
それでも諦めきれず、数歩歩いては立ち止まり、辺りを確認する事を繰り返すうち、
「本当だ。ワヒョーーー」(私)
10m程先のハイマツの茂みで、こちらの様子をうかがう雷鳥の姿が。
メスだろうか。
こちらを気にしつつも、飽きもせずに毛づくろいをしている。
数分間もの間、そこに留まってくれると言う大サービスである。
「いやいやいや。登ってよかったぜ。山頂での一瞬の晴れ間といい、雷鳥を見られた事といい、何から何まで上手くいったな。」
感動も冷めやらぬまま、畳平へ降りてきた。
レストハウスで何やらわからずに注文した、けいちゃん定食。
鶏の味噌煮に味噌汁と言う、見事な味噌っ被りである。
あ、ちゃんと美味しかったけどね。
温泉は乗鞍高原温泉湯けむり館 730円。
白濁の硫黄泉である。
宿泊は道の駅安曇野松川。
wifi無し
走行距離59km 累積走行距離1333km