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今村翔吾『じんかん』(講談社)を読み終えました。
以前、同じ作者の『童の神』を読んだとき、
盛り込みすぎで、ついていけないなぁ・・・
もうこの作者さんの小説は読まないだろう、とすら思ったものです。
直木賞候補作になったと知っても、読まずにいたのに・・・
わかりませんね~。
なんと今回は、後半、読みながら号泣。
『童の神』も歴史に材をとっていますが、主人公は架空の人。
本作は、戦国武将の松永弾正久秀を描いた歴史小説です。
久秀って・・・
織田信長にさからって、平蜘蛛の茶釜を抱いて、死んだ人だよね~w
知っていることはそのくらい、正直、興味のない人物でした。
それなのに・・・
こんなに胸が締め付けられて涙するなんて・・・
松永弾正久秀と言えば、
「仕えた主人を殺し、天下の将軍を暗殺し、
東大寺の大仏殿を焼き尽く」した大悪人。
その三つの悪事の理由を、どう描くかが、感動なのです。
ここでは、織田信長が、かつて久秀自身から聞いた身の上話を
小姓に語り聞かせるという体裁で・・・
これが安土城の天守で、という設定!
このあたりの描写が、城好きとしてはたまりません・・・♫
わたしも、安土の街を見下ろしながら、ふと夜風を感じるようでした。
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ややネタバレになりますが・・・
若き日の九兵衛(久秀)は、ある男の夢に賭けます。
民が自ら支配する世界を造る・・・と。
ところが、その男は、民によって追い詰められ、自刃するのです。
以後、九兵衛は、ずっと、そのことを考え続けます。
そんな彼に、また別の男が言いました。
「民に共通するのは善の心。
箍が外れれば後先考えずに狂騒する・・・己を善と思い、悪を叩くことは
最大の快楽。たとえ己が直に不利益を被っておらずとも」
この言葉は・・・コロナ禍の今の世に通じます!
つまり、歴史小説の中に、現代が描かれているのです。
そして、松永久秀が大悪人のレッテルを貼られるのは、ウワサから・・・
これも、今のSNSの炎上やバッシングと重なります。
誰も真実を知らないのに、ネットの情報に踊らされてしまう・・・
わたしたちは、ネットの闇に辟易する一方で、
誰もが、その渦から出ることを拒めない、拒まない・・・
矛盾だらけ・・・
こういった恐ろしさを描く一方で、人と人とのつながりの
強さをも書かれています。
九兵衛と呼ばれた少年時代から、松永弾正久秀として自刃する、
その最期まで・・・誰かしらと心通じているのです。
そこに、この世の光を見る想いでした。
以前読んだ『童の神』も、作品自体は苦手でしたが、
この人と人とのつながりは良いなぁ、好きだなぁと感じたものです。
(作家さんのひとつの特徴なのかな?)
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タイトルの「じんかん」は、「人間」と書きます。
「人間。同じ地でも『にんげん』と読めば一個の人を指す。...
『じんかん』とは人と人が織りなす間。つまりこの世という意である。」
(114頁)
500頁以上ある、分厚い小説の前半で、
タイトルの意味が明かされています。
「じんかん」について、歴史の人物を借りながら、
現代へも思いを馳せられる、力のある小説でした。
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ただ・・・蛇足ながら・・・
アタクシ・・・
松永久秀というと、「麒麟がくる」の吉田鋼太郎さんのお顔が・・・
『じんかん』で九兵衛は美少年なんですけどね・・・
美少年ねぇ・・・w
逆に、足利義輝・将軍はボロクソに描かれていて・・・
それこそ外見も人生も・・・
先週の「麒麟」で
向井理・将軍義輝が散ったばかり。
あの哀しいまでの気高さ、はかなさは、美しすぎました。
それだけに・・・
なんだかなぁ・・・という気分はぬぐえませんw
タイミング、悪すぎです。
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とにかく・・・
作家さんって、一作だけじゃわかりませんなぁ・・・
『じんかん』は、今村翔吾氏を、これからも読んでいきたいな、と
思わせてくれる小説。
読んで良かったと心から思うのでした。
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