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「麒麟がくる」の松永久秀が・・・『じんかん』

2020-09-26 | 2022夏まで ~本~
今村翔吾『じんかん』(講談社)を読み終えました。

以前、同じ作者の『童の神』を読んだとき、
盛り込みすぎで、ついていけないなぁ・・・
もうこの作者さんの小説は読まないだろう、とすら思ったものです。

直木賞候補作になったと知っても、読まずにいたのに・・・
わかりませんね~。
なんと今回は、後半、読みながら号泣。


『童の神』も歴史に材をとっていますが、主人公は架空の人。
本作は、戦国武将の松永弾正久秀を描いた歴史小説です。

久秀って・・・
織田信長にさからって、平蜘蛛の茶釜を抱いて、死んだ人だよね~w
知っていることはそのくらい、正直、興味のない人物でした。

それなのに・・・
こんなに胸が締め付けられて涙するなんて・・・


松永弾正久秀と言えば、
「仕えた主人を殺し、天下の将軍を暗殺し、
東大寺の大仏殿を焼き尽く」した大悪人。

その三つの悪事の理由を、どう描くかが、感動なのです。
ここでは、織田信長が、かつて久秀自身から聞いた身の上話を
小姓に語り聞かせるという体裁で・・・

これが安土城の天守で、という設定!
このあたりの描写が、城好きとしてはたまりません・・・♫
わたしも、安土の街を見下ろしながら、ふと夜風を感じるようでした。



ややネタバレになりますが・・・

若き日の九兵衛(久秀)は、ある男の夢に賭けます。
民が自ら支配する世界を造る・・・と。
ところが、その男は、民によって追い詰められ、自刃するのです。

以後、九兵衛は、ずっと、そのことを考え続けます。
そんな彼に、また別の男が言いました。

「民に共通するのは善の心。
箍が外れれば後先考えずに狂騒する・・・己を善と思い、悪を叩くことは
最大の快楽。たとえ己が直に不利益を被っておらずとも」

この言葉は・・・コロナ禍の今の世に通じます!
つまり、歴史小説の中に、現代が描かれているのです。

そして、松永久秀が大悪人のレッテルを貼られるのは、ウワサから・・・
これも、今のSNSの炎上やバッシングと重なります。
誰も真実を知らないのに、ネットの情報に踊らされてしまう・・・

わたしたちは、ネットの闇に辟易する一方で、
誰もが、その渦から出ることを拒めない、拒まない・・・
矛盾だらけ・・・


こういった恐ろしさを描く一方で、人と人とのつながりの
強さをも書かれています。

九兵衛と呼ばれた少年時代から、松永弾正久秀として自刃する、
その最期まで・・・誰かしらと心通じているのです。
そこに、この世の光を見る想いでした。

以前読んだ『童の神』も、作品自体は苦手でしたが、
この人と人とのつながりは良いなぁ、好きだなぁと感じたものです。
(作家さんのひとつの特徴なのかな?)



タイトルの「じんかん」は、「人間」と書きます。

「人間。同じ地でも『にんげん』と読めば一個の人を指す。...
『じんかん』とは人と人が織りなす間。つまりこの世という意である。」
(114頁)

500頁以上ある、分厚い小説の前半で、
タイトルの意味が明かされています。

「じんかん」について、歴史の人物を借りながら、
現代へも思いを馳せられる、力のある小説でした。



ただ・・・蛇足ながら・・・

アタクシ・・・

松永久秀というと、「麒麟がくる」の吉田鋼太郎さんのお顔が・・・
『じんかん』で九兵衛は美少年なんですけどね・・・
美少年ねぇ・・・w

逆に、足利義輝・将軍はボロクソに描かれていて・・・
それこそ外見も人生も・・・

先週の「麒麟」で
向井理・将軍義輝が散ったばかり。
あの哀しいまでの気高さ、はかなさは、美しすぎました。

それだけに・・・
なんだかなぁ・・・という気分はぬぐえませんw
タイミング、悪すぎです。



とにかく・・・
作家さんって、一作だけじゃわかりませんなぁ・・・

『じんかん』は、今村翔吾氏を、これからも読んでいきたいな、と
思わせてくれる小説。
読んで良かったと心から思うのでした。

◆書影は、版元ドットコムより使わせていただいております。

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