MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2678 コンパクトシティとシニアの住み替え

2024年12月01日 | 社会・経済

 最近しばしば耳にするようになった「コンパクトシティ」とは、住まい・交通・公共サービス・商業施設などの生活機能をコンパクトに集約し効率化した都市、またはその形成のための政策を指す言葉です。

 ある程度の人口がまとまって居住することで、福祉・商業等の生活サービスの持続性が向上するとともに、これらのサービスに徒歩や公共交通で容易にアクセスできるようになる。また、外出が促進され健康の増進につながるという生活面での効果も生まれると同時に、過度な自動車への依存が抑制され二酸化炭素排出量の削減につながるなど、多岐にわたる利点がある(国土交通省HP)ということです。

 まあ、政策論として聞いている分には「いいこと尽くめ」のように思えますが、分散して暮らしてきた住民を街の中心部に集めるには(まずは)街づくりをしなければならないし、引っ越し代だってかかってくる。「持続可能な暮らし」と宣伝しても、既に地域に根を生やしている住民にはなかなかメリットを感じにくいところがあるでしょう。

 しかし、各地で人口の急激な減少が避けられない昨今のこと。長い目で見れば現状の経済規模を維持できる地域は限られています。市場の縮小により住民たちに生活物資やサービスを供給していた小売業が失われたり、公共交通サービスが維持できなくなったり、水道やガスなど社会基盤の維持管理費の上昇なども予想されるところ。除雪や消防、教育などの水準を維持することもままならなくなり、人口減少の負のスパイラルが転回していくのは目に見えています。

 自治体の首長や行政担当者にとって、どのようにして人々の暮らしを街の中心部に誘っていくのかが(今後の)大きな課題になるのだろうな…などと考えていたところ、(ひとつのヒントとして)9月12日の「AERA dot.」にライターの松岡かすみ氏が、『シニアは「持ち家」からマンションへ 「買い物も病院も徒歩圏内」でもシニアが多いマンションのリスクとは』と題する記事を寄せていたので、参考までにその一部を残しておきたいと思います。

 都心部でマンション価格が高騰する中、地方では「中心部」のマンションに移り住む動きが顕著だと、松岡氏は記事の冒頭に綴っています。シニア層が郊外の持ち家から中心部のマンションにシフトする動きが、さまざまな地方都市で目立つようになってきており、全国の各都道府県においても、県庁所在地におけるマンションの建設ラッシュが続いているということです。

 確かに、人口減少が続く地域でも、県庁所在地の中心部はスーパーや病院も近く、生活利便性が高い。将来の運転免許の返納に備え車が不要な場所に住み替えるニーズや、段差のないバリアフリーの空間へのニーズなども背景にあるようだと氏は説明しています。

 氏によれば、そんな地方都市の新築マンションには、「入居者の半数が住み替えシニア層という物件もある」(不動産会社)とのこと。確かに、家のメンテナンスも難しくなった高齢者にとって、戸建てより光熱費も安く済む都市部のマンションは、暮らしに(これまでにない)利便性を与えてくれるものかもしれません。

 実のところ、齢90歳を超える私の母親も、(すでに20年以上)都心のマンションでの快適な一人暮らしを楽しんでいる一人です。駅や病院、スーパーマーケットやコンビニなどが徒歩2~3分圏内に集中していることに加え、生活ヘルパーが毎日のように訪問してくれる今の生活は、維持していくだけで手間がかかる一軒家に暮らしていては想像もできない安楽さだと本人も話しています。

 「コンパクトシティ」と大上段に振りかぶっても住民は動かないかもしれませんが、本人がいいと思えば、これまでの暮らしぶりを大きく変えることだって(人は)厭うものではありません。要は、街の中心部において、ターゲットとなる人々にどれだけ魅力的な暮らしを提示できるかが重要となってくるのでしょう。

 さて(記事に戻れば)、その一方で、居住者にシニアが多いマンションは、管理組合の運営や、管理費や修繕積、積立金の滞納、認知症による徘徊など、高齢者ならではの問題もあると松岡氏は最後に指摘しています。

 国土交通省の「マンション総合調査」(2023年度)によれば、現在の分譲マンションは世帯主の2人に1人が60歳以上で、4人に1人が70歳以上である由。高齢化で認知症患者も増える中、シニアが多いマンションでは、さまざまな問題が発生する可能性があるということです。

 住まいの選び方は時代とともに変化する。いま、終身雇用制が崩れ、働き方も多様化し、生き方や価値観も多様化していると氏は言います。住宅価格は高騰を続ける中、住宅の購入を考える機会に人生のお金も棚卸しして整理し、自分がどう生きていきたいのか。この先どんなことにお金を使っていきたいのかを考えることを提案すべきと話す松岡氏の指摘を、私も興味深く読んだところです。