「闇バイト」を使う強盗事件の報道が相次ぐ中、住宅に押し入り暴力を振るうという乱暴な手口に、不安を抱く女性や高齢者が増えているとの話を聞きます。
実際、実行役として逮捕された容疑者の多くが20代の若者で、SNSなどに示された高額報酬につられて応募し、犯罪行為に加担したケースが多いとされています。例えば、今年10月に横浜市で高齢男性が手足を縛られ殺害された事件の実行犯となった22歳の容疑者は、SNSの「ホワイト案件」との投稿に応募。途中で闇バイトと気づいたが身分証で個人情報を把握され、「家族への危害を考えると断れなかった…」と供述しているということです。
地域で「闇バイト」による事件が多発していることを受け、愛知県警が昨年管内で特殊詐欺事件として検挙した容疑者178人を分析したところ、SNSなどで集められた闇バイトが全体の4割(67人)を占めることが分かったとのこと。SNSを通じ「バイト」として集められた若者が、実行犯として次々使い捨てられている状況が見て取れます。
一方、相次ぐ凶悪な犯行に警察も本腰を入れ、この種の犯罪の未然某防止に力を入れる姿勢を見せています。10月18日の読売新聞によれば、今年に入って首都圏で起こった「闇バイト」を実行役にした強盗事件のうち、東京、埼玉、神奈川、千葉の4都県で起きた5事件は同一の指示役によって引き起こされた可能性が高いとのこと。類似の事件は8月以降、少なくとも13件発生しており、4都県警は合同捜査本部を設置して捜査態勢を強化するとしています。
記事によれば、一連の事件でこれまでに25人の実行役らが逮捕されているとされており、実行役を通じ事件全体の解明が急がれています。捜査関係者によると、一連の指示役は複数の名前を利用している同一犯とみられ、8月以降に4都県で起きた7事件では、「小山」のほか「赤西」「夏目漱石」「ジョジョ」など約20のアカウントを利用している由。警察は、SNSでメンバーを集めて事件を繰り返す「匿名・流動型犯罪グループ」(トクリュウ)が関与しているとみているということです。
さて、ここで言う「闇バイト」とは、SNSやネットの掲示板などで、「短時間で高収入」「簡単なホワイトバイト」などと呼びかけて、応募すると、詐欺の受け子や出し子、強盗の実行犯などに加担させられる手口を指しています。
就職情報サイトの「マイナビ」が今年の2月に行った、アルバイトをしている高校生651人にインターネットで実施したアンケート調査によると、46.6%が、サイトや求人情報誌を通さず「SNSで直接アルバイトを探した経験がある」と答えたという話。また、全体の34.5%が「SNSで見つけたアルバイトで、実際に働いた経験がある」と回答していることから、若い世代ではSNSによるアルバイト探しが身近になっている状況がうかがえます。
その他、『SNSで怪しい求人を見かけたことがある』と回答した高校生の割合が41.3%にのぼっており、『SNSで怪しい求人の勧誘を受けたことがある』と回答した高校生も10.4%いたことから、そうした中には高校生が常識的に考えても「明らかにおかしい」バイトが(割と普通に)存在している状況のようです。
さて、それにしても「アレ?おかしいな…」と感じた際に、実行役たちはなぜすぐに断れなかったのか。それは、犯罪グループの指示役が、「闇バイト」たちを確実に犯罪に向かわせるための手段が、入手した個人情報を盾にとって脅迫しているからだとされています。
報道によれば、闇バイトに応募すると秘匿性の高い通信アプリをインストールするよう指示され、その後、「アルバイトをするための登録のために必要だ」などと個人情報を送るよう求められるということです。そして個人情報を送信すると、(初めて)バイトの詳細が伝えられる。「これはヤバい奴だ…」と気づいて断ろうとしても、既に送ってしまった情報をもとに脅されるということです。
警察庁がまとめた闇バイトの実態を伝えるための「事例集」には、例えば「自宅に押しかけて、まず母親から狙うと脅される」とか、「やめたいと言ったら家族全員殺すなどと脅迫される」などといった証言も見受けられます。つまりは、実行役本人は「気が付いた時にはもう遅い」という状態の中で、自身や家族の身を守るため、顔も知らない相手の指示に従って必死で役割をこなしているだけということなのでしょう。
ともあれ、そんな杜撰な状況の中で(犯罪の)素人が行う犯行が上手くいくはずもありません。そして、陰に隠れた指示役たちも、(そんなことは十分に分かったうえで)捨て駒の実行役を次々と(とっかえ引っかえ)動員し、愉快犯のように犯行を繰り返しているのは想像に難くありません。
「騙される方が悪い」では済まないこの状況。結局のところ、悪いものは元から断たなくては駄目だということなのでしょう。警察当局には、SNS上の怪しげなバイト募集や書き込みを片っ端から調べて回るくらいの意気込みを見せてほしいと、思わないではありません。