厳しい厳しいと言われ続けてきた日本の財政状況が、気が付けば改善の兆しを見せている由。政府債務残高の対GDP比は既にコロナ前の水準に戻っており、「政府純債務/GDP比」も14年ぶりに100%を下回った。政府が長年財政健全化の目標に据えてきた「基礎的財政収支」(プライマリーバランス)の黒字転換も、来年度(2025年度)には達成される見込みだということです。
おかしいな…大した努力もしていないのに、どうしてこんなに簡単に「改善」の姿を見せたりしているのか。その辺りのカラクリに関し、第一生命経済研究所首席エコノミストの永濱利廣(ながはま・としひろ)氏が9月25日の総合経済サイト「PRESIDENT ONLINE」に、『「増税しないと財政の危機」と不安を煽ってきた政府の大誤解』と題する論考を寄せているので、(前回に)引き続きその概要を追っていきたいと思います。
おさらいですが、名目経済成長率(=経済成長率+インフレ率)」が国債利回りを大きく上回っていれば、債務残高/GDP比」は低下する。要するに、マクロ経済学の考え方では、インフレになれば財政は確実に改善するというのが氏の指摘するところです。
しかしその一方で、(現在の日本は)少子高齢化の影響で約3~4割が年金で暮らす無職世帯となっている。賃金が上昇してもなかなか個人消費が増えていかないこの状況は、インフレに対して極めてぜい弱な側面を露わにしているということです。
そもそも日本の個人消費が弱いのはなぜなのか。端的に言えば、その理由は国民負担率が急上昇したから。要するに「増税」と「社会保障負担増」によるものだと氏はここで説明しています。
実際、2020年以降のG7諸国の国民負担率の変化を比較してみると、日本の国民負担率だけがダントツで上がっていることがわかる。経済の低迷で実質賃金が下がる中、消費税が2度にわたって引き上げられ社会保険料も繰り返し引き上げられてきた。つまり、家計の負担ばかり増えていたわけで、個人消費が伸びないのは当然と言えば当然だというのが氏の認識です。
そうした中、(「増税メガネ」の名のとおり)「増税」のイメージばかりが強く残った岸田政権だが、(よく見れば)家計を支援する政策にも(結構)取り組んでおり、「エネルギー負担軽減策」や「定額減税」など(ある意味一般には評判の良くない)政策にも、その時々に切り込んできたと氏は一定の評価をしています。
経済の構造改革についても、「新しい資本主義」の名の下、「貯蓄から投資」「GX(グリーン・トランスフォーメーション)」「半導体産業への投資」といった政策が進められた。いずれも競争力強化につながる政策で、世界的な潮流にも沿ったものだったといことです。
中でも、成果として挙げられるのは「賃上げの実現」だと氏は話しています。今期、春闘の賃上げ率が5.1%と33年ぶりの大幅アップとなり、最低賃金の引上げも順調に進んでいる。日本の実質賃金は、27カ月ぶりにプラスに転じたということです。
しかし、個人消費はまだまだ低迷しており、経済成長の足枷となっているのもまた事実。政府は家計支援や個人消費のテコ入れについて、もっと踏み込んだ政策を実施すべきというのが氏の見解です。
そして、「もっと踏み込んだ個人消費テコ入れ策」が必要な理由がもう一つ。それは、お金についての「価値観」を刺激することだと氏はこの論考で説いています。
2009年にギウリアーノ氏とスピリンバーゴ氏という2人の経済学者が連名で記した論文によると、各世代のお金についての価値観は、その世代が社会に出た時代、具体的には18歳から24歳までの経済環境に「一生左右される」由。つまり、例え今後景気が良くなっても、若い頃に不況を経験した「氷河期世代」の財布の紐は緩まないと氏は説明しています。
実際、現在「新NISA」に積極的なのは、20代から30代前半くらいの世代とのこと。彼らは、アベノミクス以降の株が上がっている局面で社会に出た世代だと氏は言います。そして、次に積極的なのは50代後半以降のいわゆる「バブル世代」だという話です。
一方、(氏によれば)氷河期世代は投資にあまり積極的ではないとのこと。そうしたデフレ管用の下で育った氷河期世代の財布の紐を緩めるには、かなり積極的な政策が必要だというのが氏の指摘するところです。
日本は、過去30年にもわたりデフレ経済が続いてきた世界でも異例の国となっている。そんな中、人々の考え方や行動にはすっかり「デフレマインド」が染み付いていて、「実質賃金が安定的にプラス」という程度では、みな財布の紐を緩めてはくれないだろうと氏は話しています。
個人消費を盛り上げるためには、時に「お金を使えば使うほど得をする税制優遇」など、かなり思い切った政策が必要かもしれない。「景気は気から」という言葉もあるが、これも侮れない真実と言えるというのが氏の考えです。
日本が長期デフレに陥った諸悪の根源は、日本人の努力不足でも何でもなく、ひとえにバブル崩壊後に続いた「政府の経済政策の失敗」にあると氏は言います。バブル経済の崩壊は、人々の生活を経済的に傷つけたばかりでなく、その意識にも深い傷跡を残しているということでしょうか。
まずは、(「超高齢化」「老後の備え」などという言葉にビビらされ)「守り」に徹してきた日本人のマインドを切り替えていくこと。バブル崩壊とその後30年も続いたデフレによって歪められてしまった「日本人の価値観」を何らかの方策によって少しずつ解凍していくことができれば、日本経済復活の見込みは大きいものとなるだろうと話す永濱氏の指摘を、私も興味深く読んだところです。
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