MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2034 ポストコロナのコミュニケーション

2021年12月05日 | 環境


 新型コロナの感染拡大もここに来てようやく収まる様子を見せる昨今、緊急事態宣言は解除されても、オンラインを中心とした仕事の進め方はもはやコロナ前に戻ることはなさそうです。

 資料はデータで(やたらと)送られてくるし、一方の対応はチャットの一言二言で済んでしまう。打ち合わせやミーティングはオンラインが当たり前となり、テレワークの浸透で職場に姿を見せる人間の姿もめっきり少なくなりました。

 オフィスの自室にいても(ほんの数十メートルの距離なのに)若者たちはもはやいちいち説明には来てくれず、「資料を見といてね」というメールでの塩対応が当たり前。一方、資料を読み込んでいることが前提なので、これまで1時間かかっていた会議が(お互い伝えたいことだけを伝えて)ものの15分くらいであっさり終わってしまったりすると、「これで本当に大丈夫なのかな」と、少し不安になったりもする昨今です。

 しかし、こうしてオンライン会議などが増えてくると、自分がいかに「昭和のサラリーマン」であったのかが痛いほどよくわかります。液晶画面越しにしか会ったことはない人とはやはり話しづらいし、マイクをクリックして自分の用件だけをさくさく述べるのにも抵抗がある。相手の反応がよく見えないので話にどこまで乗ってきているのかが不安になることもあるし、逆にこちらの雰囲気も伝わらない。マイク越しでは厳しい意見もなかなか言えず、当然、議論もあっさりしたものになりがちのような気がします。

 やはり会議と言えばお互いの顔を見て、(会議前の冗談も含め)全体の雰囲気から議論の流れを掴んでいくもの。無理な提案にムッとする顔を見せれば相手はひるむし、建設的な意見が出れば参加者は盛り上がる。議論の内容ばかりでなく、参加者の印象を含めた様々なメッセージを伝えてくれる、貴重な機会だったのではないかなどと感じたりもします。

 会議の席ばかりでなく、Face to Faceのコミュニケーションが、ビジネスにおいて様々な情報をもたらすのは(おそらく)事実ではないでしょうか。ゴルフに行ったり接待をしたりというのも確かに大時代的ですが、少なくとも得意先に顔を出すのは市場の情報を得たりニーズを探るうえで重要なこと。用件だけ伝えていたのでは人として理解されないし、相手の感情の動きも見えてこないことでしょう。

 ビジネスシーンの中でも、これまで非言語的なコミュニケーションに重きを置いてきた職場のマネジメントなどは、このコロナによる環境の変化でずいぶんと難しくなったのではないかと感じることもあります。日常のコミュニケーションの機会が奪われ、組織内の信頼関係が築けない。部下の人となりがわからず困惑する上司や、上司の一方的に支持に戸惑いを覚える部下も多いことでしょう。

 こうして新しい働き方が広がる中、管理者は、様々な制約の中で組織内でのコミュニケーションをどうとっていくべきか。マネジメントを任されている多くのオジサマたちの悩みに応えるように、10月26日の日本経済新聞の経済コラム「大機小機」に「意思疎通は戦略的に」と題する一文が掲載されていました。

 新型コロナウイルス下で会議や研修の多くがオンラインになり、コミュニケーションに関する課題とともに組織の潜在的な問題があぶり出されるようになった。誰と誰が、何を目的に何についてコミュニケーションすべきか、この機会に職場におけるコミュニケーションのあり方を抜本的に見直す必要があるとコラムはその冒頭に綴っています。

 単なる報告ならオンラインで十分だ。会議とは本来は「会って議論(対話)」する場だが、目的が明確な場合はオンラインも有効に機能する。例えば、上司と部下が定期的に開く1対1のミーティングでは、漠然としたコミュニケーションが目的であればオンラインは不向きだが、部下の育成やキャリア指導というような「明確な目的」がある時は、オンラインでも信頼関係は十分に醸成できるというのが筆者の認識です。

 また、昨今指摘される「品質コンプライアンス」の問題は、営業部門と生産現場のコミュニケーションに主な根本原因があるとされる。しかし、それは対面かオンラインかといった会議の開催方法の問題ではなく、重要なのは会議の内容を変えることにあると筆者は言います。両者が「販売価格と原価」の話だけでなく、検査項目や仕様要件など品質に関する対話がしっかりできれば、問題解決に寄与するはずだということです。

 企業と顧客との接点もまたしかり。普段は営業担当や幹部に偏りがちの顧客とのコミュニケーションも、オンライン会議であれば生産部門や品質管理部門など様々な関係者も参加しやすいと筆者は話しています。関係する全ての部門が参加して顧客の意見や声を直接聞けば、ニーズを適切に捉えて誤解が生じにくくなり、情報共有のための時間も不要になるなど絶大な効果をもたらすだろうということです。

 しかし、だからといって全ての会議をオンラインによって効率化できるかと言えば、そういうものでもないというのがコラムにおける筆者の見解です。取締役会などガバナンス(企業統治)にかかわる会議や監査業務、頻繁に会うことのないメンバーが集まる会議は、できるだけリアルで対話すべきだと筆者はしています。ゼロから人間関係を構築するのはオンラインでは難しい。新人や中途採用者にとっては社内事情が分からず不安が増すかもしれず、特別な配慮が必要だというのが筆者の指摘するところです。

 結局のところ、対面に勝るコミュニケーションはない。しかし、制限された環境下でも、時間という有限で重要な経営資源を効率的に活用できるコミュニケーション戦略が必要だと、筆者はこのコラムの結びに記しています。効率と冷静さ。人間関係や雰囲気に流されない合理的な判断など、オンラインを使ったコミュニケーションの優位性というものも、これから先、次第に見えてくるかもしれません。

 環境への柔軟性は、企業の競争力を高めるもの。つまらぬアレルギーなど持たずに積極的に取り入れ、メリットを活かしていくべきだと考える筆者の指摘を、私も興味深く読んだところです。



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