森林整備の財源として国が全国の自治体に配っている「森林環境譲与税」の予算消化が、特に大都市部で滞っているとの報道が9月6日の日本経済新聞にありました。(「森林整備財源、持て余す都市部 使途なく全額未消化も」2022.9.6)
あまり知られていないようですが、「森林環境譲与税」とは、2年後の令和6年度から国内に住所を有する個人全員に対して(頭割で年間千円を)課税されることになっている「森林環境税」を原資として、都道府県と市町村に配られる(譲与される)資金です。
なので、実際の収入はまだ1円もないワケですが、「森林整備が喫緊の課題である」との理由からなぜか譲与金だけが(令和元年度から)前倒しで各自治体に配られており、その財源(約2300億円)には後年度の森林環境税の税収が充てられるとされています。
因みに、森林環境譲与税は、市町村においては間伐や担い手の確保、木材利用の促進や普及啓発等に使われることになっています。また、都道府県においては、森林整備を実施する市町村の支援等に充てることとされています。
お年寄りから赤ちゃんまで、黙っていても分け隔てなく「(復興税を引き継ぐ形で)千円いただきます」ということで、(大した議論もなく)どさくさに紛れるように徴収されることが決まった森林環境税。しかし実際の現場では、(5年も前倒しで配られているにもかかわらず)さほど必要とされていないという状況をどう理解すればよいのか。記事の内容をもう、少し深く追っていきたいと思います。
森林環境譲与税が使われない理由は、(簡単に言ってしまえば)都市部では森林自体がなく使途に乏しいから。そのため、国から配られたお金を丸ごと貯金に回す自治体が続出していると記事はしています。一方、林業が盛んな中山間地域では財源不足を訴える声も聞こえてきますが、過疎や後継者不足から担い手やそもそもの意欲を欠く地域も多いということです。
お金を配ることばかりが先行して、実際にやるべきことが見えてこない。そもそも、こうしたミスマッチがなぜ起こっているのか。
2019年から配分が始まった譲与税は、私有人工林の面積や林業従事者数、人口に基づき都道府県や市区町村に案分されているもの。実際に森林がなくても、市町村には人口に応じた金額が入る仕組みで、2019年度の200億円から段階的に引き上げられ、22年度は500億円が配られたと記事はしています。
総務省のまとめによると19~20年度の市町村分500億円のうち、半分以上の272億円が(持て余され)基金に積み立てられている。一方、年間予算で約5億円を林業振興に充てている東京都の檜原村が21年度に受け取った譲与税はわずかに2541万円で、人工林のない東京23区の平均3444万円と「逆転現象」が生じているということです。
「森林面積が大きい自治体に多く譲与されるべきだ」…譲与税が導入されて以降、中山間地の自治体では配分基準の見直しなどを求める意見書が相次ぎ可決されたと記事は言います。
現在は経過措置として譲与税の財源は国庫から支出されているが、令和6年度からは、新たに「森林環境税」として住民税に1000円を上乗せして徴収される。現在、東日本大震災の復興に充てている財源を付け替えるため国民一人一人の負担感は変わらないが、国民が納めた税が目的どおり効果的に使われるかどうか、より厳しく問われるというのが記事の指摘するところです。
現在、譲与税の配分比率に占める人口要因は30%。これによって、人口の多い大都市部の自治体に多くのお金が流れているが、(記事によれば)実際のニーズに照らせば5%程度が妥当だという声も根強くあるようです。
さて、記事にもあったように、時限立法である東日本大震災の復興税(防災施策対応)が2023年度に終期を迎えるに当たり、この600億円財源を手放してしまっては勿体ないと環境省、農水省、総務省の間での縄張り争いが繰り広げられ、結果生まれたのが件の森林環境税。制度の成り立ちや素性はともかくとして、せっかく特定財源が確保できたのであれば上手く使わない手はないはずです。
戦後の拡大造林の影響や昨今の担い手不足、なによりも国内林業のコスト高によって管理がままならなくなった日本の森林資源を活かすための、知恵を試されている状況と言えるでしょう。
近年ではウッドショックで外国産材の高騰が続き、国産材にも(ようやく)目が向けられるようになったとの話も聞きます。お金もあるしタイミングもいい。日本の森林整備を良いサイクルに乗せるには、(もしかしたら)今回が最後のチャンスになるかもしれません。
森林整備は温暖化ガス吸収に寄与し、日本が脱炭素を進めるうえで重要なカギを握るもの。税本来の目的を踏まえ、(政治を排した)効果的な森林整備につながる財源配分が求められると考える記事の指摘を、私も興味深く読んだところです。
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