11月22日の京都新聞が掲載した「学校健診で「上半身裸」になる必要あるの?」という記事が、学校保健関係者の一部で話題になったようです。
「学校の定期健康診断で上半身裸になるのを娘が嫌がっている」「体操服を着て実施する学校もあるのに、脱衣は本当に必要なのか」…記事によれば、京都新聞社には、女子児童生徒の保護者から小中学校での健診の方法に対してこのような疑問の声が相次いで寄せられているということです。
子どもの性に対する保護者の意識が時代とともに変化し、健診の在り方について学校医や学校と共通の理解が図りづらい実態が浮かび上がっていると記事はしています。
「子どもはとても恥ずかしい思いで健診を受けたと話していた」「反抗できない関係性で服を脱げと言われることに親として不安を感じる」などなど、記事には親たちの学校への不信、不満の声が数多く記されています。
一方、当事者の京都市教委は市学校医会と協議し、健診ではプライバシーに配慮しつつ上半身は脱衣で内科検診と背骨の異常をみる脊柱検査を受けさせるよう、各校に通知しているとされています。
他都市でも、特に思春期の女子児童生徒で脱衣の拒否が課題になっている。専門家からは「学校健診をどのように実施すべきかについて文部科学省が関係機関と協議し、科学的根拠を基に統一の見解を出すべきだ」という声が上がっていると記事は指摘しています。
さて、記事を読んで、養護教諭や学校医の前で無理やり上半身裸なれと命じられる中学生の恥ずかしさを想像すれば、確かに何とかしてやれないものかと思うのが親心というものです。
しかし、思春期の女子中学生の羞恥心や人権を無視した教育委員会や学校の旧態依然とした権力的な対応が問題だと言わんばかりの記事の書きぶりには、メディアらしい(いささかの)傲慢さを感じないわけでもありません。
実際、学校現場でもわざわざ好き好んで(ぶうぶう文句を言う)年頃の生徒の服を脱がしているわけではないでしょう。手間を考えれば、学校関係者にとっても、着衣のまま検査できればそれに越したことはないはずです。
それでも、上半身裸にさせるのには何かわけがあるはず。日本小児科学会指導医の坂本昌彦氏が12月2日のYahoo newsに「学校健診で「上半身裸」は必要?」と題する論考を寄せ、専門家の立場からその理由を説明しています。
下着も含め、多くの学校で生徒に服を脱いでもらっている理由いくつかあると氏は言います。
例えばアトピー性皮膚炎など皮膚の状態が分かりやすくなること。発疹やの有無や皮膚の色の変化ばかりでなく、栄養状態など普段は分かりにくい健康状態、発育状態もわかることでしょう。
背中などの全体を見ることで、虐待やいじめなどの痕跡も見つけやすいと氏は指摘しています。本人からは教師や友人にも告白しづらいそうした経験を、身体は如実に物語るということです。
さらに、それ以外の大きな理由として、坂本氏はこうした形での検診が「側弯(そくわん)症」の兆候を発見する機会となることを挙げています。
側弯症は背骨が左右に曲がる病気で、生まれつき背骨や肋骨に異常があったり基礎疾患が原因でなるケースもあるものの、その8割は原因不明の特発性のものだということです。
実はその9割近くが思春期特発性側弯症といって11才以上の女子に多く、思春期に進行するタイプで、女子全体の実に2%が該当する決して少なくない病気だと氏はしています。
この病気を見つけるには、医師がそうした観点から背中をよく観察する必要があり、服を着ていると見つけることが非常に難しいというのが氏の指摘するところです。
今回の京都新聞の記事に対してはネット上で多くのコメントが付けられ、(思春期の少女に)「服を脱いで健診を行うなんて時代錯誤だ」というものも少なくなかったが、学校保健の現場ではその時期の女子の健康状態を把握する上で、定期的なチェックは(基本的に)欠かせないものとして認識されているということです。
さて、もとよりそうしたことについて何の説明も行わず、学校側が一方的に服を脱げといっても子供や保護者からは反発もあるでしょう。何より生徒本人が納得できるよう、医師を始め学校保健の関係者がその理由を丁寧に説明することが求められていると坂本氏もこの論考で話しています。
健康診断一つとっても、(現場には現場なりの)一般的にはあまり知られていない苦労があるのですね。
子どもの人権を守ることは確かに大切だけれど、健康を守ることの方が優先されるべきなのは言うまでもありません。メディアの皆さんには、そうした様々な事情も含め、関係者によく取材したうえで丁寧な報道をお願いしたいと改めて感じたところでもあります。
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