電話の向こうに今まで聞いたことのない老婆の声がする。
苛立ち、荒々しい息遣いで訴えてくる。
母の感情はまるでジェットコースターのようだ。
父Kintaと母Fumieの立場が逆転した。
50年ただの一度も聞いたことのない声で何度も怒鳴られ
おろおろした父Kinが電話してくる。
母の退院を子どものように待ちわびていた父。
世話をやく父を煩わしがりそっぽを向く母。
「ぼけ」ている時、母は夜叉のようになる。
まだらになっている記憶、思い出せない悔しさ、
読んでも理解できない文字。
不安と怒りでいっぱいなのだろう。
このまま、「あっち」へ行ったきりにならないでほしいのだけれど。
仮に「あっち」へ行っちゃったとしても、鼻歌うたいながら、ニコニコぼけてほしいのだけれど。
長いきびしい生活が母をこんなに苦しめていたのかとあらためて思っている。
思えば11月、「ヒモ的生活」のタイトルでコブつきの『演劇人』と結婚した母のことを書こうと思い立ったんだよなあ。
たった3ヶ月でこんなことになろうとは!