A Blowing Session (Blue Note)・JOHNNY GRIFFIN
「口角泡を飛ばして、侃々諤々と議論するが如くだね。このアルバムは」
夏原が、今レコード額に収めたばかりの『ア・ブローイング・セッション』のジャケットを見ながら言った。
「テナーでもってジャズ小僧たちが、それぞれの語り口で自己主張しまくってるんだね」
これまたジャズ小僧のヒゲ村が言った。
「これを聴いていると、昔四畳半で焼酎の一升瓶を回し飲みして、取っ組み合いになるほどの白熱の議論をした日を思い出すよ」
カラヤンが懐かしそうな目で言った。
「真っ先に議論をふっかけるのは、いつもジョニー・グリフィンね」
スミちゃんも加わってきた。
「ベラベラと多弁なのがグリフィン。ああ言えばこう言うタイプで、とにかく変幻自在に言葉を操ってがむしゃらに喋りまくっている印象だね」
夏原が言う。
「いるよね、喋っているうちに何がなんだかさっぱりわからずって感じね」
スミちゃんも言う。
「理路整然として滑らかな口調で喋るタイプがジョン・コルトレーン。脱線しそうなグリフィンを、君君ってたしなめたりして一人落ち着きはらっているんだね」
カラヤンが言った。
「たどたどしい言葉で、お手やわらかにとか言ってボソボソ喋っているのがハンク・モブレー。コルトレーンのように流暢な語り口じゃない分、朴訥な人間味を醸し出している感じだね。時々割って入って、まあまあ興奮しないでと言っているのがリー・モーガン。一人トランペットの気軽さかな」
ヒゲ村が言った。
「三人テナーのバトル・セッションだと、ワン・ホーンの時と違って勢い自分のスタイルを前面に出そうとするから、そういう意味で面白いね。まあこれはグリフィン名義の盤だから、当然グリフィンの出番が多いのは仕方ないけど」
夏原の言葉に皆頷いた。
「モブレーはやはり向いてないわよね。埋没しちゃう。可哀想だから次に『ソウル・ステーション』かけてやってよ」
スミちゃんのリクエストに夏原は笑いながら頷いた。
「あっ、オレもそう思っていたんだ。何だか不思議だね」
「ほんと?」
スミちゃんがヒゲ村と顔を見合わせて言った。
「毎夜ここにいると同じような事を考えるのかな」
横で聞いていたカラヤンが言った。
「実際はどういう性格だったか知らないけど、プレイから想像するとモブレーって気が弱そうで、引っ込み思案だと思うわ」
「ボク、ワン・ホーンが好きって、モブレーがテナーで言ってるよ」
ヒゲ村が戯けた調子で言った。
「モブレーはたしかにバトル向きではないよね」
夏原が言った後、1曲目の『リメンバー』が流れだした。か細い頼りな気な中にも芯のある音を醸成していた。
「モブレーは、何といってもけれんみがないのが一番の魅力よね」
「そう、オレといっしょだ」
臆面もなくヒゲ村が言い放ち、一同が沈黙した。
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