ボリショイ劇場 & シドニ-オペラハウス観劇記

元モスクワ、現在シドニ-赴任の元商社マンによるボリショイ劇場やシドニ-オペラハウスなどのバレエ、オペラ観劇記です

新国立 ザハロワ・ウヴァーロフ ドンキ 2

2007年07月01日 | Weblog

他の日本のブログReaderより30日の公演の寄稿頂きました。写真は再び1月31日のボリショイのドンキの2人。

 「ドン・キホーテ」

バジル:アンドレイ・ウヴァーロフ

キトリ:スヴェトラーナ・ザハロワ

新国立劇場 3pm~  30 June 2007

怪我から復帰後初の来日公演となったウヴァーロフの2日目のドンキ。プリマ中のプリマとして絶大な人気を誇るザハロワとの、少女漫画のようによく出来た絵になるペアーである。

この日は舞台に非常に近い、向かって左よりの席であったので、オペラグラスも捨てて裸眼で楽しめた。

ザハロワもウヴァーロフも、登場するだけで舞台が華やかになり、その並外れた容姿と均整の取れたプロポーションが・・・残りの日本人ダンサーとどうしても比べてしまう。。。大きな拍手で迎えられた二人は、ライトの光も要らないのでは?と思えるぐらい眩しく美しい! 

ザハロワは少し痩せたのか(実際痩せすぎに見えた)、首筋と鎖骨の辺りに女性らしさが見えず、ラテンの女性にはとても見えなかった・・・どちらかと言うとプリンセス調。2幕3場の森の中でのチュチュにティアラの姿のほうがはるかに彼女らしく、ホッとさせられるものがある。

とは言え、キトリでももちろんファンには嬉しい役柄であるのは彼女の愛らしさと、踊りのテクニック故であろう。

ウヴァーロフは、美しく目元をメイクし、ソロの部分では目の強いキリっとした男性になり、ザハロワと一緒の時にはあくまでもやさしい、明るいバジルを演じていた。

彼はともするとドンキでは、一幕目など明るさを通り越して危うく「チンピラ」になりかけるが、この日のウヴァーロフは陽気で気立ての良いユーモアたっぷりのバジルになりきっていた。横柄な感じも無く、キトリに向ける目が優しい。

ザハロワのテクニックに関しては、とにかく、上がる脚! 軸の足に筋肉が盛り上がらないのも感心するが、フロアーにいても宙を舞っていても、左右前後に脚が上がるわ上がるわ・・・軽く6時のポーズを何度も笑顔でとってみせる。バレエにおいて、これは「上げすぎ」の域に入ってしまうのかもしれないが、ギエムもそうであるように、観客としては上がれば上がるほど、飛べれば飛ぶほど、テクがあるかのように見えてしまう・・・ ただ上げるだけではなく、ザハロワの場合はその経過が美しい。フロアーから空中に上がるまでの弧の描き方、その瞬間&瞬間が美しいので、ただの「振り子時計」では決してない。雑になることもなく、音楽から遅れることも無く、こんなにも上がってしまうのだから、許せてしまう・・・

ザハロワは一幕目のカスタネットを持ちながらの踊りは、バネを活かして伸び伸びと踊る。この部分は、以前よりも大分曲のテンポに合わせて踊れるようになったようである。長身の彼女にとっては、スタッカートの効いた曲に合わせるのは容易でないと察する。また、腹筋力ももう少しあればよいのかもしれないが、そこは他のダンサーと比べずに彼女らしさを楽しむのが良いかもしれない。

タンバリンを持ったザハロワをウヴァーロフが腕一本で持ち上げる際、2度目は若干ウヴァーロフが安定するまでに時間がかかり、ザハロワを降ろした直後は彼は胸から顔まで赤くなっていたので、寸での所で持ちこたえたという感じであった。しかし、実際少し離れた席であれば全く見えないぐらい些細な事ではあったが。大きな拍手が沸いたので、安心した。

一幕目の最後の部分で、タンバリンを持ったウヴァーロフがタンバリンをブーメランのように投げた後、ザハロワと踊る場面があるが、ここで行う3回のリフト、良く見ればリフトして更に10cm程ザハロワを空中に真上に投げ、ウヴァーロフは一瞬完全に手を離しているのだ。どうりで、リフトも高いはず。それを連続3回ともやっている彼のサポート力は素晴らしい。上方の角度から見なければ、恐らく見えなかった「細工」である。

それ以外の部分においても、回転やバランスでもかなりザハロワはウヴァーロフに頼っている部分が大きい。

2幕目ではザハロワは黒に黄色の縁取りの衣装で、今までとは違った印象を受けた。助走を付けての飛び込み2回は、ほかのバレリーナよりは安全圏を狙っているのか、それほど「思い切って」飛び込むわけではなく、どよめきもここでは湧かなかった。 

一幕目も二幕目も、演技はメリハリを付けていたので顔の表情も楽しめた。ガマ―シュを完全に否定する姿や、ザハロワとじゃれる場面でも、ちょっとズルがしこそうな様がよく作られていた。自殺の場面では、笑いを取るタイミングも上手く、ここは本人も楽しんでいそうな一人舞台であった。他のダンサーはキトリの手を取って、胸を触ることが多いが、ウヴァーロフはもう一方の手(右手)もキトリの手に重ねるだけである。

3幕目のグラン・パドゥドゥはとにかく見ごたえがあり。2人の息も合っていた。安心して見ていられた。優美である。ザハロワの引力が全く感じられない、羽のような軽さと、それを完璧にサポートする(サポートと言うよりは「エスコート」と言いたい)ウヴァーロフ。舞台をフルに利用した成熟した踊りにため息が出る。

ソロのパートでは、最初のヴァリエーションでザハロワはまた苦手なスタッカートの曲に合わせての踊り。パッセの連続で後ろに下がってゆく場面では、ステパネンコやオシポワなら拍手が沸くが、彼女の場合は音楽もゆっくりめにとっているように見えてしまう。ラテン系の熱いキトリと言うよりは、一貫してエレガントなキトリである。グラン・フェッテでは、「シングル&シングル&ダブル」の組み合わせで最後まで踊った。ほぼ軸がブレる事も無く、笑顔も途切れなかったので、上出来であった。

ウヴァーロフは、回転、ジャンプともにダイナミックでスピードがあり、かつ、雑になることもなく足先の伸びが常に美しい。圧倒されてしまう。また、要所要所のキメのポーズの際に、視線と手先の表情が美しい。

主役2人がゲストなのでどうしても注目されてしまうが、新国のソリスト、特に女性ダンサーの活躍も素晴らしかった。ストリート・ダンサーの西川貴子や、メルセデス役の湯川麻美子らは、その正確な技術のみならず共にキャラクター作りにも徹していた。

オーケストラにも満足し、終始楽しく目の保養となる大成功の舞台であった。

ウヴァーロフ、ザハロワ共に、カーテンコールでは満足の笑みが溢れており、ウヴァーロフはしきりに口を動かして何か話しかけていた。幕前では、ザハロワの手にキスをしたり、最後まで紳士的なウヴァーロフであった。



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2 コメント

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詳細レポート感謝です ()
2007-07-02 18:46:45
今回、2公演とも観に行くことが出来ませんでしたので、公演レポートの提供者のお二人に感謝いたしております。

管理人様のコメントにもありましたが、週末のブログ閲覧者数が非常に多かったとのこと。

画像や動画、レポートや情報量の多さから、世界のボリショイ・ファンが、このブログに注目しているのですね!

1年半も日本のファンを待たせたウヴァーロフさんが、「ドン・キ」という18番で帰ってきて下さったのは嬉しいですね。

ご本人も日本のファンの熱狂や、アリーナさんのアミノ・バイタル・プロのプレゼントなど喜んだことでしょう。


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素晴らしいレポートですよね (管理人)
2007-07-03 10:26:16
叶さん
素晴らしい詳細なレポートですよね。
おかげさまで昨日は更に読者が増えて257Reader でした。深謝。
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