ボリショイ劇場 & シドニ-オペラハウス観劇記

元モスクワ、現在シドニ-赴任の元商社マンによるボリショイ劇場やシドニ-オペラハウスなどのバレエ、オペラ観劇記です

ボリショイロンドン公演 8月16日 『明るい小川』

2007年08月23日 | Weblog

在英国特派員Kさんよりのレポートです。

昨夏のロンドン初演 で、観客、批評家双方から絶賛された『明るい小川』。このバレエに理屈は 要らない。ただ楽しめばいい。人の心を明るくする、素敵な作品だ。今回 は、初演以来この役を当たり役とする、クラシック・ダンサーのフィーリン以外は、現在売り出し中の若手で第一キャストが組まれた。 ジーナのクリサノワとバレリーナのオシポワは、結婚生活に倦怠感が漂い始めた若 妻と中央からやってきたスターを演じるには、まだあどけなさが残る若さが 邪魔をしてしまった。しかし、再会の場面で、学校時代を思い出し、「この ステップは覚えている?このステップは?」と共に踊る姿はなんとも微笑ま しかった。そこには、バレリーナになることを夢見て、励まし合いながら稽 古を重ねる少女達がいた。等身大の彼らの反映なのだろう。 オシポワのバレリーナからは、友を思う優しい気持ちが感じられ た。また意外と言っては失礼だが、時折見せるしっとりとした表u24773 情に驚かされた。オシポワはやはり驚異としか言いようがない。彼 女に求めるものがあるとすれば、精神的成長に伴う芸の円熟、ただそれだけだ。クリサノワは、そのお茶目な雰囲気からは想像もしていな かったが、クラシカルでリリシズムに溢れ、二幕のピョートルとのパ・ド・ ドゥは実に美しかった。個人的には、今後最も期待したい女性ダンサーだ。 そのジーナの夫、ピョートルを演じたメルクリエフ。素朴で単 純、美しい女性の出現に舞い上がるが、妻に知られると平謝りという、その 辺によくいそうな男。ともすれば印象が薄くつまらなくなりがちなこの役 に、メルクリエフは生き生きとした人物像を与え、確かな存在感を示した。 メルクリエフは役ごとに全く違った顔を見せる。ボリショイへの移籍は、彼 にとってもボリショイにとっても、大きな収穫だったに違いない。 そして、この作品の話題の的、クラシカル・ダンサーのフィーリン。当初の配役発表では、この役に彼の名はなかった。だ が、フィーリン抜きでの上演には、ロンドンの観客は黙っていなかったろ う。この役はフィーリンそのものだ。彼の魅力で満ち溢れている。バレリー ナのパートナーというだけの設定のこの役を、フィーリンは彼の個性で染め 上げてしまった。自然体で絶妙のコメディ・センスも特筆に価する。この役 をフィーリン以外で見るのは、考えられない。 最後に、この作品 の影の主役、いやらしくも魅力的なアコーディオン奏者のヤニン。この役も ヤニン以外で見るのはやはり考えられない。ヤニンがいなければ、この作品は果たしてこれほどの魅力を放っただろうか。 この作品の楽しみ の一つは、ヤニンのような素晴らしい脇役が存分に活躍している点にある。 そして、そのような脇をこなす人材に事欠かないボリショイの層の厚さに圧倒されることにあるといっていいだろう。



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