ボリショイ劇場 & シドニ-オペラハウス観劇記

元モスクワ、現在シドニ-赴任の元商社マンによるボリショイ劇場やシドニ-オペラハウスなどのバレエ、オペラ観劇記です

ボリショイ ロンドン公演 18 Aug マチネ 「The Bright Stream」

2007年08月28日 | Weblog

前後しましたがロンドン特派員Mさんからの寄稿です。

ボリショイ ロンドン公演(at London Coliseum

18 Aug 2007 昼公演

The Bright Stream」アレクセイ・ラトマンスキー振付

ズィーナ:ニーナ・カプツォワ

ピョートル:アンドレイ・メルクリエフ

バレリーナ:ナタリア・オシポワ

古典ダンサー:ヤン・ゴドフスキー

アコーディオン奏者:デニス・サーヴィン

ショスタコーヴィッチの音楽を使った、明るいコメディー・バレエ。来年の日本公演にももってゆく作品だが、去年のロンドン・プレミアでは好評を得た人気作品。

90分と言う短い演目の中に、男女カップルの繰り広げるドタバタ喜劇だけではなく、バレエの技や見せ場も多く、また、キャラクター表現の豊かなソリストたちの出番も多くあるので、目が離せない。群舞のポルカに乗った軽快なダンスも楽しめる。

スターリンのスローガンや、当時のバレエ広告を載せたようなキリル文字の活字記事を組み合わせたプリントの中央に、労働者の鍬など共産主義的なシンボルが施された白黒の幕を見ながら最初しばらく音楽を聴く。私たちにはわからないものが、この幕を見るロシア人、スラヴ民族にはわかるのだろうと思うと、少しヤキモキ。歴史的な出来事の重みや、時代の推移を知らずして、ショスタコーヴィッチものに臨むのには、いつも少し畏怖の念をいだく。幕が開いても、世界大戦時のプロペラ機が背後を飛んでいたりする。

一旦演目が始まると、共産圏的な要素は全くなく、明るく楽しいバレエ。

平均年齢の若いキャストだった。個人的に好きなダンサーたちの総出演。

カプツォワは控えめで自分に自信無さそうな、旧友思いの女性を演じる。はにかむ様な表情が可愛い。オシポワは音楽が流れると自然に踊りだすような、活発なバレリーナを演じる。カプツォワ、オシポワの幼馴染み的な友情は微笑ましい。2人とも目と目で語りながら一緒に踊る。

バレリーナにうつつを抜かすメルクリエフのキャラクター作りも良かった。かなりテイストの悪い模様のシャツ衣装が、妙に似合ってしまうのも印象に残った。

そんなメルクリエフに敵意を見せるしぐさをするゴドフスキー。こちらもニッカボッカーにベレー帽で、品良く似合っていた。彼らの踊りももちろん申し分ない。メルクリエフもゴドフスキーも共通して、手先や足先の表現がエレガント。いつもピンと伸びる。

ソリストでは、毎回演目ごとに変身を遂げるロパレヴィッチ扮する老人と、その妻役のヴィノクールが徹底したコミカル演技と、愉快なダンス、パ・ド・ドゥで笑いをそそる。

また、去年のロンドン公演ではコーカサスのハイランダー役だったサーヴィンが、何とアコーデイオン奏者で出てきたときには変身振りに驚いた。去年観たときには全てヤニンが担当した役柄で、身長もダンサーとしての雰囲気も全く異なるサーヴィンが、どのようにこなしてくれるのか注目した。驚く事に、良くこなしていた。熱さや風変わりな具合も、ヤニンに似せているわけではなく、サーヴィン独自の表現力で、キザなハイカラ男になっていた。ガーリャ役の小柄なスタシェケヴィッチとも、不思議とバランスがとれていた。サーヴィンは今回のロンドン公演では本当に色々な顔を見せてくれた。

いつもどこか目立たないボローティンは、トラクター運転手役がピッタリで、彼は喜ばないかもしれないがハマリ役!明るく楽しいキャラクターで、犬に扮するときも可愛い!

このバレエの見所は、シェークスピアの喜劇のように、ドタバタによって男女の数組カップルが振り回されると言う事。オシポワとゴドフスキーが男女の役柄を入れ替える場面は心底楽しめた。オシポワは、男装してもアレクサンドローワのように「男前」にはならず、逆に少女っぽく見えてしまうのが予想外で驚いた。それでも粋がって歩いたり、サバサバと身をこなしたり、そこがまた可愛い。演技力はあるし、踊りはもともと男性ダンサー並に飛んだりはねたり出来るので、怖い物無し。ゴドフスキーは、脹脛などオシポワよりも細いので、白いドレスにポワントも女性並みにお似合い。エレガントな物腰も出来るし、丁寧なポワント・ワークが彼らしい。

スピード感あふれる群舞のダンス、明るい色鮮やかな舞台と衣装、収穫祭の大きな作物など、見ていて飽きる事のない演目。最後の皆で手を振る終わり方も楽しく、ダンサーと観客がこのような形でコミュニケーションがとれるのが嬉しい。

 



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