7/29(金) 晴れ
ツールド・シェムリアップ 第3ステージ 130km
ラピュタのモデルとなったとも言われるBoeng Mealea遺跡を往復するステージ。暑さに加え、カンボジア特有の砂埃、風をどう克服できるかが、本ステージの鍵となる。
「平地での追い込み。それこそが今日のステージの全てだ」
F選手(仮名)は今日のステージが始まる前、私にそう言ってくれた。彼は一昨日の第1ステージ、昨日の第2ステージと徐々に調子を上げてきており、体が仕上がっていることを今回のステージで証明するのだと言う。
昨日までのステージに比べ、格段に距離が伸び、難易度の上がった第3ステージだったが、結果は見事完走。
幸運にも、レース終了後、彼にインタビューを行うことに成功した。
完走おめでとうございます。今回のステージはいかがでしたか?
ありがとう。さすがに、疲れたよ。でも最低限完走できて良かったと思ってる。難易度の高いステージだったけど、日々のトレーニングのおかげで乗り切れたよ。行きはずっと向かい風で、ペースを上げすぎないように気をつけたけど、帰りは案の定追い風で、かつ下り基調だったから、思い切って踏めるところは踏んでタイムを稼いだんだ。
今回レースに臨まれるにあたって、どのような対策を行ったのでしょうか?
まず、砂埃対策だね。カンボジアは道があまり整備されていないから、すぐ砂が飛んでくるんだ。だからこのステージに備えてオークリーのサングラスを買ったよ。5ドルだけどね。それから暑さ対策にアンコールワットの刺繍が入った帽子、エサとして後ろポケットに入るサイズのオレオを買ったよ。取り急ぎ揃えたにしては上出来だろ?
ええ、上出来だと思います。困難の連続だったと思いますが、最大の難所はどこだったのでしょうか?
田んぼのど真ん中でひたすら赤土の上を走っていた時は、心が折れそうになったよ。地図なし、看板なし、すれ違うのは牛ばかりだったからね。水を少し含んだラトソルは走っていて重いし、所々陥没していてとても疲れたよ。でも一番きつかったのは、本当にこの道で合っているのか分からない状態が1時間ぐらいずっと続いたことなんだ。「分岐は全部右、最後突き当りを左」という適当な覚え方をしてきた自分の頭の悪さを呪ったよ。
そもそもなぜBoeng Mealeaへ自転車で行こうと思ったのでしょうか?なかなかない選択だと思うのですが。
そうだね。勧誘してくるガイドから「何kmあるとおもってるんだ!?」とドン引きされたよ。「お前はバカか、行けるわけないから、タクシーに乗れ」と。でもそんなこと言われると、余計冒険してみたくなるじゃないか。もちろん、無茶しない範囲でね。
なるほど。それはガイドでなくてもドン引きだと思います。走っている最中は、どんなことを考えているのですか?
ほとんど何も考えていないね。普段あれだけ色々考えているのに、自転車に乗ると、頭が真っ白になるんだ。ずっと音楽がリピートしているよ。ちょうど行きも帰りも学生の集団とすれ違ったから、一体カンボジアの学校はどれぐらいの時間勉強しているのだろうと思った程度だね。
実際Boeng Mealeaに行かれて、どうでしたか?
着いたのが、朝の9時ぐらいだったからね。人がいなくて、静かで神秘的だったよ。それにどこが入口か分からなかったから、直感で森を突き進んでいくと見つかったんだ。あれは感動だったね。チケットを買ったのにチェックもされなかったし。今度場所を教えてあげるよ。
ありがとうございます。最後に一言。
やると決めたことはやらないといけない。自分に嘘をついてはいけない。だからこそ、何を頑張るのかを決めるときは、本気で悩んで考えて、しっかり責任をとる覚悟を持たないといけないと思うんだ。一度決めたら、誰に何を言われようがちゃんとやる。それが当たり前のようにできる大人って案外少ないんだ。その精神を忘れないように、時々こうやって無茶をして色々思い出しながら、これからも戦い続けるよ。
今回彼に話を聞き、いかに頭のネジが緩んでいるのかが、よく分かった。まわりに理解されるには時間がかかるし、生きている間は常にアウェイな感じであろう。そのことは彼が一番よく分かっているはずだ。その上で、その生き方を続けようとするのであれば、幾多の困難が待ち受けるに違いない。それを乗り越えることができれば、もしかしたらBigになっているのかもしれない。今後の彼の活躍から目が離せない。
付録として、彼がBoeng Mealeaで収めた写真の内、いくつかを公開する。
Q.E.D.