かもうな
養子縁組 第二之巻
時右衛門夫婦は養子となるべき佐藤長十郎の次男治郎左衛門に始めて逢う。
※ここからは治郎左衛門を治郎と呼ぶ。
治郎は初めて逢う養父母に緊張しながらも正座をし、
「この度はわざわざ仙台から私のためにお越し頂き有難うございます。未熟
者ですがこれからよろしくお願い致します。」
親に教えられたのか淀みなく挨拶をしたが肩が震えている。
これから我が身に降りかかるであろう運命に抗う事ができない無力さを感じ
ていたのである。
運命とは人智の及ぶ所成、宿命とは人智の及ばざる所成、これを合わせて天
命という。論語には「子曰く、吾十有五にして學の道に志し、三十にして立つ
、四十にして惑わず、五十にして天命を知る。六十にして耳順(したがう)」
とある。果たして治郎が天命を知るのは何時のことであろうか。
幼き頃から慣れ親しんだ白石の町、ホタルが乱舞する清流、雪を抱いた蔵王連
峰が治郎からいま離れようとしている。
幼き治郎にとっては親兄弟と別れ見たこともない仙台での暮らしの不安は如何
ばかりの事であっただろう。
・・・続く・・・