誰でも自由なこころで 時代小説「かもうな」掲載中

江戸時代の仙臺藩髙橋家に養子に入った治郎の生涯を愛馬のすず風を通して描いた作品です。時代考は本当に大変でした。

かもうな すず風 第一之巻(二)

2023年03月14日 15時24分04秒 | 日記

かもうな

すず風 第一之巻(二)

 

 

      治郎はその子馬に駆け寄り頬釣りした。子馬は治郎が来てくれるのを

      待っていたかのようにその薄汚れた軀を治郎に擦り寄せた。

      運命とはどのような出会いを生むか分からないものである。

      神は「すず風」という駿馬を治郎に授けたのであった。

      養父時右衛門は馬を飼うにあたって治郎に一つだけ約束をさせた。

      すず風の手入れ、餌やり全て治郎が行うことそれだけである。

      それからの治郎は常にすず風と共にあった。夜は廐舎(馬小屋)で寝、

      朝起きては水やり、餌やり、毛並みを整え周辺を散歩する日課が続い

      た。

      月日が巡るのは早いものである。

      宝暦元年(1752)治郎は18歳の凛々しい青年、すず風は5歳駒と成長し

      ていた。子馬の時には見えることが無かった白い七斑(はん)がくっき

      りと見えて美しい。

      ちなみに「七斑」とは

      鼻筋に一、下唇に一、四脚に四、尾尻に一の白斑で、この斑ある馬は非

      常に珍しく「才馬」とも呼ばれ、よく神社等に御神馬として奉納される。

      運命とは不思議なものである。

      治郎との出会いが無かったならばすず風は、おそらく一生駄馬としての

      苦難の道を歩んだことだろう。

      運命の神は治郎に駄馬を与え、駿馬にする試練を与えたに相違ない。

                 ・・・続く・・・