むすんで ひらいて

YouTubeの童話朗読と、旅。悲しみの養生。
ひっそり..はかなく..無意識に..あるものを掬っていたい。

当たり前の横顔で

2014年02月05日 | こころ
甘いお菓子も大好きだけど、予期していなかった野菜や果物がとびきり甘かったりすると、ただただ感動してしまう

ふつうの値段の、さつまいもの、林檎の、みかんの、人参の。

今年も、庭の夏ミカンと柚子と金柑の収穫をした。
夏ミカンは、段ボールにしまって酸味を落ち着かせ、初夏に爽やかな甘酸っぱさになるのを待つ。
金柑は、売っているものより小粒。
でも、そのままポイポイ口に放れば、野生に近いこの庭の、どこからこんな甘みがやってきたかとびっくりする。

塀に向かって咲いていた水仙を部屋に飾れば、どこか懐かしい爽やかな香りがこぼれる。

それは、身近な生活、ありふれたものの中にある祝福



バリ島の州都デンパサールにある友人の家に泊まった朝、「ジャーッ!」という音で目が覚めた。
部屋は一階。
「なんだなんだ?」
音のもれてくる窓へと歩き、そっとカーテンを開けると、そこは建て物がコの字型に囲んでいる中庭の、野外台所だった。

おばあちゃんはしゃがんで青菜を洗い、お母さんが中華鍋で炒め物をしている「ジャーッ!」の手前、中央の台で友人が野菜を切っていて、朝日の下ににぎやかなおしゃべりの花が咲いていた

25才の彼女は、はす向かいに住む幼なじみくんと中学の時からおつき合いをしていて、一度ケンカ別れしたけれど、近所でちょくちょく顔を合わせるうちに、一年後に復縁。
お互いの家族に、温かく見守られていた。

わたしが帰国する日、彼氏が運転して、友達が赤ん坊の甥っ子さんを膝に乗せて、もう一人の友人と4人で空港まで送ってくれた。
別れ際、彼女が「忘れないでね」と、ガラスの指輪を外してくれた



別の友人のお姉さんが住む、バリのお隣、ロンボク島 (インドネシア地図) の家庭では、お姉さんが、娘さんと家庭料理をふるまって下さり、テラスでいくつもの大皿を囲んだ。
下の息子さんは沖縄の大学に留学中で、バリ島で働いている長男ジョンくんが、ロンボク随一の温泉地まで家族とドライブに連れていってくれた
タッパに詰めてきた焼き鳥と焼き魚のお弁当を開け、わたしたちは原っぱでピクニックをした

ジョンのお姉さんは、両親の反対した相手と四年前に駆け落ちし、バリ島で結婚していた。
妹さんも、その後やっぱりバリの恋人と暮らし始めたから、今はジョンだけが島に残り、稼業のインターネットカフェを継いでいる



友人の友人、インドネシア屈指のウィンドサーフィン選手が里帰りすると聞き、便乗させてもらって行ったスラウェシ島
ご実家では、近くの漁港で獲れた魚を軒先の七輪で焼き、釜炊きご飯でもてなしてもらった

お家は簡素な木造で、二階の床板のほそーい隙間から階下が覗けた。
通りから玄関へ続く路地の塀には、その選手が小さい頃のびのび描いた自分の名前がまだ残っていて、その前で彼は得意げに笑っていた

イルカのような肢体で、風とひとつになって海面を滑っていく彼は、少し前、スマトラ島で開かれたアジア諸国の参加する大会で2位になり、その賞金で(ご両親はすでに亡く)兄弟3人に衣類をプレゼントしていた

出迎えてくれた二番目のお姉さんイナには、会ったとたん懐かしさがにじみ出て、昔から友達のような気分になった
お客さん用の部屋や、日本のようなお布団がないので、夜は、彼女が自分のクイーンサイズベッドに枕とインドネシアで一般的な抱き枕を持ってきて、隣を心地よく整えてくれた。
蚊帳の中、隣の部屋のお兄さんに聞こえない小声で、眠たくなるまでおしゃべりした

お部屋には、鏡台やタンスがこざっぱり可愛らしくしつらえられていて、それまでおじゃました欧米の瀟洒なお部屋たちと同じに、住む人の温もりが息づいていた。

一週間の滞在後、ライオン・エアでバリ島に戻ろうとしたら、イナと彼女の二人の友人が、ちいさなハサヌディン国際空港まで見送ってくれた。
 
車でお家まで迎えに行ったお友達の一人は、前日に失恋したばかりで、居間のソファーに身体をうずめしょんぼりしていたけれど、話してるうちに涙はやさしい笑いに溶けていった。

イナは、勤めているスーパーで、青いディズニーのバスタオルをお土産に用意してきてくれたので、その包みを片手にゲートの前でハグをした。
からだを離すと、彼女のぽってりした唇と大きな目がみるみる赤くなり、白いハンカチを出して涙を押さえ、「また来てね」と、手を振ってくれた。

最後の曲がり角で振り返った時、3人並んだ真ん中で、満面泣き笑い顔をして、大きく手を振り続けていてくれた。


わたしは、まだ先に待っているものがあったから、ジーンときたけど、泣かなかった。
忙しさや探し物に取りまぎれて、宝物は、後になって見つかることが多い




                           かうんせりんぐ かふぇ さやん     http://さやん.com/

コメント