陽ざしが、だんだん懐かしい色に変わっていく。
さっきまで混んでいた岬の休憩所は、人々が、日没に合わせて開演されるケチャダンス会場に向かい始めたので、空いてきたところだ。
バリ島の夕陽鑑賞で有名な、このヒンドゥー教のウルワツ寺院には、海の霊がまつられている。
案内してくれたドライバー兼ガイドさんは、ベンチに腰掛けてこちらに身をよじり、わたしが先日の夜中に聞いたのはトッケーというヤモリの声だったのか、ヴィラのオーナーが言ったカエルの声だったのかと、両方の鳴き声を真似て確かめていた。
「うん、やっぱりあれはトッケーだったと思うよ」
それで、わたしの小さな疑問が消え、もう一度彼が、
「ああ、トッケートッケー!だからね」
と繰り返した瞬間、天井から突然、
「トッケェェ、トッケェェェー」
と、今度は本物の鳴き声がした!
「ああ、これこれ」
と、思わず頷きながら、あまりのタイミングのよさにお互いビックリして見上げた。
通りかかった観光客の男性も一緒に声のする方を覗いたけれど、結局誰も姿を見ることはできず、三度聞こえてピタッと止み、後はもうそれきりだった。
早く着いて日の暮れるのを待っていたわたしたちは、そこにかれこれ1時間は座っていたが、あれが10日ぶりくらいに聞いた、愛らしくひょうきんな、まるで鼻の奥から出るような関心の音だった。
「ここには神様がいるから。 今話してるの聞いていて、教えてくれたんだよ」
と、ドライバーさんが、ぐるりを振り仰いだ。
(ふしぎなことに、これを日暮れ前のホテルのビーチで書いていたら、ちょうど先の鳴き声のところに「トッケー」と書いた瞬間、後ろでまた本物が鳴いた!
やっぱり三度きっかり、ウルワツから帰って初めて聞くし・・・ わたしはトッケーについている♡)
去年の夏、スミニャックのホテルから浜辺に降りて歩いている途中、「ザ レギャン バリ」というゆったりした外観のホテルが気になったので、先日そのレストランに行って夕陽を待っていた。
目前に広がる緩やかな水平線と、間近に打ち寄せる波に、自然からだがゆるゆると伸び、バリに来た甲斐があったなぁ。と、無心になって潮風に吹かれていた。
連日のように雲は多かったけれど、水平線と空の境目には帯のような虹色の空間が広がり、そこだけぼんやり明るかった
ところが、しばらくすると風がぼうぼうと吹きすさび、雨雲がすっぽりと視界を包み、雨がプールサイドのタイルをバチバチと打ちつけ始めた。
そして時々、ほんの一瞬だけ、空と海が昼間と同じくらいの明るさで銀色にパッと光り、暗闇に浮かび上がった。
ウルワツの前に立ち寄った午後3時のヌサドゥアビーチは、くたくたになりそうな(いや、なった。)強い日差し
ところが、それから数時間後お寺に着くと、崖っぷちをどんより演出する灰色雲ふたたび現る。
彼方で雨が降っているけれど、何とかこちらは持ち応え・・・
程なく、晴れ間が見えてきて。
輝いた表情も見られて、よかった
この後、先のトッケー談をしていたら、光がおいしそうなパパイヤ色に変わっていった。
崖の上の円形劇場では、ケチャダンスが始まり、時々男性たちのケチャケチャビートが風に乗って流れてくる。
雲と太陽と一直線。
これまで見た、美しい夕陽を次々に思い出した。
ごほうびの時間は、どこかに一度沈んでいた、信じようとか愛そう!というちからを太陽と交代に連れてきた。
かうんせりんぐ かふぇ さやん http://さやん.com/