庭の南天が、赤い実の房に枝をしならせ、その粒つぶには、銀色の雨の雫が寄り添っている。
いつの間にか、赤と緑の似合う季節になった。
先日友人と、子どもの頃に行ったきりだった、地元の動植物園を廻った。
林を抜ける、幅の広い下り坂に差しかかった時、ふと
「ここいたことある!」
と、感じた。
右隣に、麦藁帽子を傾けた母、圧倒的な緑のトンネル、降り注ぐ木漏れ日。
幼稚園の頃、通っていたお絵かき教室の写生会で、象をスケッチした後、ここに移って色塗りしていたんだっけ。
桃色の画板を首からぶら下げて、左向きに並んだ二頭の象をどんな色で塗ったらいいか、たじろいでいた。
象と言えば、3、4才頃にも、この動物園でのインパクトがある。
象舎の囲いには、何十円か入れると象とお話ができる「電話機」が取り付けてあった。
「電話越しなら、象もお話ししてくれるんだ!」
と、びっくりして、なんだかすごい秘密を打ち明けるような気持ちで、恐るおそる母に話した。
「お金を入れてもらったら、何を話したらいいんだろう。 わぁ。 まず、『こんにちは。』だよね。 あの3頭のどの象が、どうやって電話に出てくれるんだろう。 前足で受話器、持てるのかな。(鼻は思い浮かばない) 受話器持ったら、こっち向くのかな。 わぁ。 どうしよう。。」
などと、めくるめく展開にドキドキしたけれど、覚えている母の反応は、笑ったようなあいまいさで、ぼんやりしている。
それから、惜しさとちょっとの安堵で、右に電話機を見上げて、土っぽい象さんの庭を離れた。
そんなことを思い出しながら歩いていると、「象は新舎に引っ越しました」という標識の先に、いたいた。いたゾーウ。
人だかりの向こうの囲いには、やっぱり「電話機」らしきものが見える!
近寄ってみると、説明書きがあり、それによれば…
100円を入れて、コードの付いた受話器に見えたもの(それにしては小さかった)を取り外して耳に当てると、動物の解説が聞ける、そうだ。
そんなところと想像していたものの、懐かしいひとに再会したようでうれしい。
その上から、マジックで「故障中」と書かれた紙が張られているのも、それでいいような気がしてくる。
水飲み場で、象が一頭鼻を丸めて、笑った形の口に水を注いでいた。
その様子を、泥場の端っこから一羽のカラスが見ている。
あの頃より遊び場がこじんまりして見えるのは、わたしが大きくなったからかな。
ロッキー山脈に棲む大きな黒熊、月の輪熊たちが、こちらとあちらを仕切る溝の縁を。 トラは檻に沿って、せわしなく行ったり来たりを繰り返していた。 フラッシュと歓声を浴びて。
もしも電話が通じたら、彼らはなにを話すだろう。
今度は、そんなことを思った。
帰りの電車に、大きな黒縁眼鏡に水玉の蝶ネクタイ、魔女が履いていそうな先の尖った黒靴、の男の子が乗ってきた。
シートの端の、一際きらびやかなオーラに、思わず「ほぉー」と目を引かれたけれど、彼にはその装いがなんとも似合っていて、気取ることなく普通に寛いでいた。
どんな状況やカタチでも、その命らしさがムリをせず、しっくり光っていればいいんだろう。
そのためにできることは、きっとまだある。
10月、海を望みながら緑の丘でヨガをしてきました。
かうんせりんぐ かふぇ さやん http://さやん.com/
いつの間にか、赤と緑の似合う季節になった。
先日友人と、子どもの頃に行ったきりだった、地元の動植物園を廻った。
林を抜ける、幅の広い下り坂に差しかかった時、ふと
「ここいたことある!」
と、感じた。
右隣に、麦藁帽子を傾けた母、圧倒的な緑のトンネル、降り注ぐ木漏れ日。
幼稚園の頃、通っていたお絵かき教室の写生会で、象をスケッチした後、ここに移って色塗りしていたんだっけ。
桃色の画板を首からぶら下げて、左向きに並んだ二頭の象をどんな色で塗ったらいいか、たじろいでいた。
象と言えば、3、4才頃にも、この動物園でのインパクトがある。
象舎の囲いには、何十円か入れると象とお話ができる「電話機」が取り付けてあった。
「電話越しなら、象もお話ししてくれるんだ!」
と、びっくりして、なんだかすごい秘密を打ち明けるような気持ちで、恐るおそる母に話した。
「お金を入れてもらったら、何を話したらいいんだろう。 わぁ。 まず、『こんにちは。』だよね。 あの3頭のどの象が、どうやって電話に出てくれるんだろう。 前足で受話器、持てるのかな。(鼻は思い浮かばない) 受話器持ったら、こっち向くのかな。 わぁ。 どうしよう。。」
などと、めくるめく展開にドキドキしたけれど、覚えている母の反応は、笑ったようなあいまいさで、ぼんやりしている。
それから、惜しさとちょっとの安堵で、右に電話機を見上げて、土っぽい象さんの庭を離れた。
そんなことを思い出しながら歩いていると、「象は新舎に引っ越しました」という標識の先に、いたいた。いたゾーウ。
人だかりの向こうの囲いには、やっぱり「電話機」らしきものが見える!
近寄ってみると、説明書きがあり、それによれば…
100円を入れて、コードの付いた受話器に見えたもの(それにしては小さかった)を取り外して耳に当てると、動物の解説が聞ける、そうだ。
そんなところと想像していたものの、懐かしいひとに再会したようでうれしい。
その上から、マジックで「故障中」と書かれた紙が張られているのも、それでいいような気がしてくる。
水飲み場で、象が一頭鼻を丸めて、笑った形の口に水を注いでいた。
その様子を、泥場の端っこから一羽のカラスが見ている。
あの頃より遊び場がこじんまりして見えるのは、わたしが大きくなったからかな。
ロッキー山脈に棲む大きな黒熊、月の輪熊たちが、こちらとあちらを仕切る溝の縁を。 トラは檻に沿って、せわしなく行ったり来たりを繰り返していた。 フラッシュと歓声を浴びて。
もしも電話が通じたら、彼らはなにを話すだろう。
今度は、そんなことを思った。
帰りの電車に、大きな黒縁眼鏡に水玉の蝶ネクタイ、魔女が履いていそうな先の尖った黒靴、の男の子が乗ってきた。
シートの端の、一際きらびやかなオーラに、思わず「ほぉー」と目を引かれたけれど、彼にはその装いがなんとも似合っていて、気取ることなく普通に寛いでいた。
どんな状況やカタチでも、その命らしさがムリをせず、しっくり光っていればいいんだろう。
そのためにできることは、きっとまだある。
10月、海を望みながら緑の丘でヨガをしてきました。
かうんせりんぐ かふぇ さやん http://さやん.com/