夕方、裏庭の倉庫の屋根に、茶トラ猫がだいだい色の夕陽を浴びて寝そべっていた。
出かける支度をしながら、洗面所を行ったり来たりするついでに窓をのぞくと、その度に右半身→左半身→前後逆のうつ伏せで上半身(軒の陰になっていた)、の順にまんべんなく温まっている。
カレは、このあたりを縄張りにしているらしく、よくこの倉庫や駐車場の屋根で、台所のゴミ袋を物色しているところは二度、見かけた。
初めて目が合った時、ケンカ痕か右耳の先っぽがちぎれていて、左目のまぶたに縦傷があり、バサッとした毛の海賊猫のような姿をしていて、わたしの勝手に抱いていたしなやかなネコのイメージとかけ離れていることにショックだった。
もっとシビアな野良猫なら、インドやタイにもいたのに、自分の暮らしの中で出会ったせいだと思う。
先日、長野県の白馬八方尾根をトレッキングした。
子どもの頃、何度もスキーをした山だけど、登山ははじめて。
標高2,060mの八方池は、霧に包まれ、ひんやりしていた。
あたまのおっきな真っ黒オタマジャクシが、幅の広い尾をひらひらさせて泳いでくる。
小学生の頃、家から道を5分ほど下ったところに、金網の柵で囲われた池があった。
夏に窓を開けて寝ていると、「ぐぶう、ぐぶう。」と、夜の底から響いてくるようなドスの利いたウシガエルの合唱が聞こえ、毎晩の子守歌だった。
薄緑色の柵には、絡みつくように桑や野イチゴが茂っていて、あちら側にはセイタカアワダチソウの壁もできていたから、池の水面を見たことはなかったけど、
「この向こうに、あの声の主が棲んでるんだ。」
と想像するのは、おもしろかった。
八方池を廻った翌日は、標高1,190m、一周2kmの鎌池を歩いた。
ブナの森に囲まれ、時々フナやマスがジャンプ、沢蟹がちょこちょこ走りをしていた。
ところどころに秋の模様。
写真右下から、山の透き通った水が注ぎ込んでいて、せせらぎの音が心地いい。
次いつお目にかかるかわからないあのトラ猫は、やがて起き上り、もうずいぶん傾いた西日に向かって座り直した。
わたしがそっと網戸を開けて挨拶すると、ケガしている方の少し細い目と、くりんとした右目でこっちを見てから目をつむり、ムフフと笑ってるような満足そうな顔をした。
ぴんと立った傷痕残る耳にも毛色と同じ光が当たっていて、これまででいちばん幸福そうに見える。
なぜだか、
「カレも、猫を生きてるんだなぁ。」
と思った。
今は埋め立てられ、住宅地になったあの近所の小さな池も、そばにあるのに未知の世界だった。
かうんせりんぐ かふぇ さやん http://さやん.com/
出かける支度をしながら、洗面所を行ったり来たりするついでに窓をのぞくと、その度に右半身→左半身→前後逆のうつ伏せで上半身(軒の陰になっていた)、の順にまんべんなく温まっている。
カレは、このあたりを縄張りにしているらしく、よくこの倉庫や駐車場の屋根で、台所のゴミ袋を物色しているところは二度、見かけた。
初めて目が合った時、ケンカ痕か右耳の先っぽがちぎれていて、左目のまぶたに縦傷があり、バサッとした毛の海賊猫のような姿をしていて、わたしの勝手に抱いていたしなやかなネコのイメージとかけ離れていることにショックだった。
もっとシビアな野良猫なら、インドやタイにもいたのに、自分の暮らしの中で出会ったせいだと思う。
先日、長野県の白馬八方尾根をトレッキングした。
子どもの頃、何度もスキーをした山だけど、登山ははじめて。
標高2,060mの八方池は、霧に包まれ、ひんやりしていた。
あたまのおっきな真っ黒オタマジャクシが、幅の広い尾をひらひらさせて泳いでくる。
小学生の頃、家から道を5分ほど下ったところに、金網の柵で囲われた池があった。
夏に窓を開けて寝ていると、「ぐぶう、ぐぶう。」と、夜の底から響いてくるようなドスの利いたウシガエルの合唱が聞こえ、毎晩の子守歌だった。
薄緑色の柵には、絡みつくように桑や野イチゴが茂っていて、あちら側にはセイタカアワダチソウの壁もできていたから、池の水面を見たことはなかったけど、
「この向こうに、あの声の主が棲んでるんだ。」
と想像するのは、おもしろかった。
八方池を廻った翌日は、標高1,190m、一周2kmの鎌池を歩いた。
ブナの森に囲まれ、時々フナやマスがジャンプ、沢蟹がちょこちょこ走りをしていた。
ところどころに秋の模様。
写真右下から、山の透き通った水が注ぎ込んでいて、せせらぎの音が心地いい。
次いつお目にかかるかわからないあのトラ猫は、やがて起き上り、もうずいぶん傾いた西日に向かって座り直した。
わたしがそっと網戸を開けて挨拶すると、ケガしている方の少し細い目と、くりんとした右目でこっちを見てから目をつむり、ムフフと笑ってるような満足そうな顔をした。
ぴんと立った傷痕残る耳にも毛色と同じ光が当たっていて、これまででいちばん幸福そうに見える。
なぜだか、
「カレも、猫を生きてるんだなぁ。」
と思った。
今は埋め立てられ、住宅地になったあの近所の小さな池も、そばにあるのに未知の世界だった。
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