空中庭園

2009年09月09日 | 読書
感想文と言うより、読んだ証というだけのつもりから始めたのだが、これが結構難行苦行で、ちゃんと書こう書こうとどうしても思ってしまうので、苦痛のときが多い。
でも書き上げてしまえばいちおうの満足感と、記憶の定着作業が完了した安堵感で、ほっとする。しばらく経ってから読み直してみると、何とか記憶がよみがえるので、やはり記録を残しておくのに越したことは無い。


今回は「空中庭園」・・・角田光代さんの自分としては2作目である。前回読んだ「対岸の彼女」よりも面白いという複数のブロガーがいたので、絶対借物ではなく文庫本を買うべしと思って意気込んだが、盛り上がりに欠け、最後のスッキリ感のないまま終ったので、肩透かしを食ったような、頼りなさを覚えている。もう少しところどころを読み返してみたら、気がつかない意外な伏線や、深い意味合いが分かるのかなあとも思うが、どうかなあ。
大変暗い家族の物語で、誰一人暗い問題を持たない人がいない。でも文体は極めて明るく、淡々と軽いタッチで進んで行く。娘(姉16歳)も父も、母も息子(弟14歳)も、祖母も父の愛人も。
物語は章ごとに語り手(主人公)が変わってゆき、それぞれの章を読み進みながら、話の全体像を理解させて行く手法は、松井今朝子さんや村山由佳さんの小説でも楽しませてもらった。一人の主人公の主観だけではなく、複数の登場人物の語りの中で、物語を徐々に客観的に理解できてくる楽しさが味わえる面白い手法だ。

しかし、暗いお話が暗いまま、中途半端なままで終ってしまったので、かなり不満が残った。愛人が二人いる父親はこのあとどんな生き方に変わっていくのか、変わらないのか。多分若い愛人には愛想をつかされて、関係は終るのだろう。
息子とカテキョ(父の愛人)の関係が意外に健全である事、ラブホテルに言ったりもするのだが、そしてそれを祖母に見つかったりもするのだが、祖母がその事を母親に告げ口するわけでもなく、その辺りに「一つの救い」があるように感じられる。
子供達二人は、いじめのターゲットで、友達もほとんど無く、苦しいばかりの中学高校時代をただ先の人生への通過期間として消化試合をしているだけ。母も祖母も同じように穏やかでない人生経験をそれぞれ経てきて、秘密を持ち続けている。カテキョの愛人さんも暗い。暗い人たち同士の共感とまでは行かないが、それぞれが健全な常識人では無いがゆえに、一方的な正義感で直截的に責めることは無い。そんな救いだけはあるのかもしれない。

物語としては「対岸の彼女」のほうが分かりやすく、最後でほっとすることが出来た。これが角田さんの成長?というような事を、あとがきで石田衣良さんが書いているが、自分の読み違いだろうか。本当のところは、作品価値としてはどちらがどうなのだろうか。またこの続きはいつか考えることがあるのかもしれない。作家自身はどんな子供時代、学生時代を生きてきているのだろうか?

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