【令和5年6月号・主宰の24句】水のある地球日本は水の春 大野鵠士

2023年06月14日 | 主宰句・主宰句鑑賞
海雲(もずく)  大野鵠士
【獅子吼1010号(2023年6月)掲載】

水のある地球日本は水の春
・季語 水の春(三春)※主季語・春の水
・この句を読んで連想したのは「水の地球少し離れて春の月 正木ゆう子」の句。
 鵠士句はまず地球全体をイメージして、その後に日本の水の春を描くのに対して、
 ゆう子句は地球をイメージした後、宇宙からの目線で地球と月との位置関係を描いている。
 共通するのは、春という季節の持つゆったりとした鷹揚さのようなものだろうか。
   
暁を浅く眠りて玉椿
・季語 玉椿(三春) ※主季語・椿
・玉椿は椿の美称。長寿の木として祝賀の歌に多く使われる言葉だそうだ。
 明け方の浅い眠りの中で玉のような椿をイメージする。幸福に満ちた一日が予感されるようだ。

転がして春筍の二本かな
・季語 春筍(はるたけのこ・晩春) ※主季語・春の筍 ※傍題・春筍(しゅんじゅん)
  
耳を吹く春風馬齢とは言はじ
・季語 春風(三春) ※主季語・春の風
・耳元を過ぎる春風が心地よい。無駄に年をとっているなんてとんでもない。私は春を迎えて益々意欲に満ちている。
※馬齢を重ねる・・・なす事もなく老いる。無駄に年を取る。

スプーンにすくへぬものに春愁
・季語 春愁(三春)
  
残花とは人にも似たる佇まひ
・季語 残花(晩春)
※残花・・・花時も大方過ぎた晩春の頃に、まだ散り残っている桜のこと。

特急になき吊革よ春の旅
・季語 春の旅(三春) ※主季語・春
・新幹線の走行中に車両移動をする時、意外に横揺れや不規則な揺れを感じることがあった。
 普通車両に付いている吊革が無いので、そんな時は座席の背もたれをつかむしかない。
 自由席の空席が無い繁忙期などは吊革が無いのはとても不便を感じるに違いない。
  
堤には柳彼方の羊雲
・季語 柳(晩春)
  
腹這へば目の高さなり花薊
・季語 花薊(晩春) ※主季語・薊
  
竹秋や松風松を離れたる
・季語 竹秋(ちくしゅう・晩春) ※主季語・竹の秋
  
海のなき町に売られて蛍烏賊
・季語 蛍烏賊(晩春)
   
駅といふ人の八衢朧の夜
・季語 朧の夜(三春) ※主季語 朧月夜 ※傍題・朧夜
・例えば、旅から帰って名古屋駅の雑踏の中を歩く時、人々が四方八方に足早に家路を急ぐ様子を捉えた様子か。
※八衢(やちまた) 道がいくつにも分かれている所

黄塵に塗れこの世を歩きをり
・季語 黄塵(三春) ※主季語・春塵

   近頃は
霾天は黄よりネイビーブルーなり
・季語 霾天(ばいてん・三春) ※主季語・霾(つちふる)
・前書きに「近頃は」とあって、黄砂の空の色が黄色ではなく濃紺だと詠んだ一句。ちょっと意外に感じるのだが。
※ネイビーブルー・・・濃紺色。イギリス海軍の制服の色。
  
人間は地球を汚し亀鳴けり
・季語 亀鳴く(三春) ※傍題 亀の看経(かんきん)
  
造花より造花らしきは紅椿
・季語 紅椿(三春) ※主季語・椿
  
春灯に運命線を晒したり
・季語 春灯(三春)
  
考へは堂々巡り山笑ふ
・季語 山笑ふ(三春)
  
啄木に故郷は遠しクローバー
・季語 クローバー(晩春) ※主季語・苜蓿(うまごやし)の花 ※傍題・苜蓿(もくしゅく)、しろつめくさ
※苜蓿には二通りの読みあり <うまごやし、もくしゅく>

啄木忌巣箱に残る幼な文字
・季語 啄木忌(晩春) ※四月十三日
  
塩煎餅割りて高山祭かな
・季語 高山祭(晩春) ※四月十四日と十五日 ※傍題・山王祭
※飛騨高山の素朴な駄菓子として昔ながらの「塩煎餅」があるそうだ。
  
雨の日のアールグレイよ夏隣
・季語 夏隣(なつどなり・晩春) ※主季語・夏近し
※アールグレイ・・・ベルガモットで風味を付けた紅茶(イギリスのグレイ伯爵が紹介した事から)
  
若鮎の影のさばしる光かな
・季語 若鮎(晩春) ※主季語・小鮎 ※傍題・鮎の子
・万葉集475番の長歌の一節を踏まえている一句。 
  はるさりぬれば|やまへには|はなさきををり|かはせには|あゆこさばしり|
  春去奴礼婆|山邊尓波|花咲乎為里|河湍尓波|年魚小狭走|
  
夜の色の海雲啜りて箸を置く
・季語 海雲(もずく・三春) ※もずく・・・海雲、水雲、海蘊
※もずくは海蘊とも書く。 「蘊蓄(うんちく)を傾ける」の「蘊」という字。
  「蘊」という字は「蘊(つ)む」「蘊(たくわ)える」とも読むので、
 細い海藻がたっぷりと、つみたくわえられたような…という意味合いか。

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
地球温暖化が (そこつ)
2023-06-16 20:14:23
叫ばれていますが。美しい水の国は健在でいて欲しいものですネ。無粋なコメントですいません。
花寒の雨の日には暖かなアールグレイが
優しくほっこりと。
啄木は美しく哀しい、大好きな歌人です。
好きな句ばかりでした。
返信する
散歩しながら (健人)
2023-06-16 22:35:29
作句のための色んなヒントを得られる気がして、
散歩しながら24句を繰り返し読んでいます。
本当は同じ季節の句を選びたいのですが、
新作の句には新鮮な魅力があります。
2か月前の季節の句にはなりますが、
リズムや調べ、題材の見つけ方、季語の選び方など、
ゆっくりじっくりと、何回も味わいながら歩いています。
返信する

コメントを投稿