【獅子吼984号(2021年4月)掲載】
魚は氷に(24句) 大野鵠士
雪つけて雲に紛るる伊吹山 雪 三冬
※「雪つけて」の措辞に、日々親しんでいる伊吹山への愛情を感じる句。
幼子がほっぺたにご飯粒を付けて、というような感じか。
湯気立ての湯気立ち上る四畳半 湯気立て 三冬
※最近は「湯気立て」ではなく加湿器ですが、
昔はストーブの上などに水を張った洗面器を置いて、空気の乾燥を防いでいましたね。
やさしげに裸木包む日差しかな 裸木 三冬
伸び悩むこと日脚にもありぬべし 日脚伸ぶ 晩冬
※日差の暖かさに確実に春が近づいているのを実感する季節。
そうは言っても暖かさは一進一退。それを伸び悩むと捉えた感性がすごいと思う。
寒暁白湯飲みて身を綺麗にす 寒暁 三冬
※冬の朝の凛とした空気の中、先ずは白湯を飲んで心を整えようというところか。
透明の雲形定規寒明ける 寒明 初春
花林糖に仄かな渋みある余寒 余寒 初春
春寒や詩になりたがる句を叱る 春寒 初春
※俳句は詩になってはいけないのか。散文でもなく詩でもなく、俳句とはいったい何者。
浮世絵の女立たせむ牡丹雪 牡丹雪 初春
※牡丹雪は春の雪の傍題。身返り美人のような艶っぽい図を想像します。
傘閉ぢて振るひ落とせり春の雪 春の雪 初春
朝からの春雪異人館の窓 春雪 初春
春の雪血をもて汚してはならじ 春の雪 初春
※桜田門の変か二・二六事件を想像しますが、ミャンマーの状況を非難した句かもしれません。
魚は氷に鏡は心写さざる 魚は氷に 初春
※主季語は「魚氷に上る(うおひにのぼる)」、七十二候の一つで立春の第三候。
春になると、魚が氷の上に躍り出るという。一説に、魚が氷に沿って川を遡る意味ともいう。
この句は取合せの句。早春の季語と後半のフレーズの響き合いを味わいたい句です。
酒蒸しの酒かぐはしき浅蜊かな 浅蜊 三春
※食べ物の句は美味しそうに詠むべしと言われます。
たんぽぽや母恋の句は蕪村にも たんぽぽ 三春
黄砂降る奥へと目抜き通りかな 黄砂 三春
一家言あり白魚を食べるにも 白魚 初春
天金の鈍き光や逍遥忌 逍遥忌 初春(二月二十八日)
※「天金」が分かりませんでしたが、辞書を引いて納得。
洋装本で、上方の小口に卵白・ニスなどを用いて金箔を張り付けたもの、とあります。
坪内逍遥は岐阜県美濃加茂の出身の人。「小説真髄」は大学の文学の時間に出てきたような。
最近「獅子吼」誌上に、逍遥にちなんだエッセイを書かれていました。
災ひの列島たわみ春嵐 春嵐 三春
血の巡る音なり雪解川の音 雪解川 初春
※雪解けの水が、小さな流れからやがて大きな流れへと変わってゆく。
凍えた大地に暖かい血液を送り込むように、ドクンドクンと強い鼓動を響かせている。
春の雲ノアの箱舟とも仰ぐ 春の雲 三春
物腰のやはらかな人柳の芽 柳の芽 仲春
手を叩き鯉を呼びけり春の風 春の風 三春
永き日やうつつを抜かすこと楽し 永き日 三春
※日暮を遅く感じる春の日。どんなことに「うつつを抜かし」ておられたのか。
野球中継でないことは確かです。
魚は氷に(24句) 大野鵠士
雪つけて雲に紛るる伊吹山 雪 三冬
※「雪つけて」の措辞に、日々親しんでいる伊吹山への愛情を感じる句。
幼子がほっぺたにご飯粒を付けて、というような感じか。
湯気立ての湯気立ち上る四畳半 湯気立て 三冬
※最近は「湯気立て」ではなく加湿器ですが、
昔はストーブの上などに水を張った洗面器を置いて、空気の乾燥を防いでいましたね。
やさしげに裸木包む日差しかな 裸木 三冬
伸び悩むこと日脚にもありぬべし 日脚伸ぶ 晩冬
※日差の暖かさに確実に春が近づいているのを実感する季節。
そうは言っても暖かさは一進一退。それを伸び悩むと捉えた感性がすごいと思う。
寒暁白湯飲みて身を綺麗にす 寒暁 三冬
※冬の朝の凛とした空気の中、先ずは白湯を飲んで心を整えようというところか。
透明の雲形定規寒明ける 寒明 初春
花林糖に仄かな渋みある余寒 余寒 初春
春寒や詩になりたがる句を叱る 春寒 初春
※俳句は詩になってはいけないのか。散文でもなく詩でもなく、俳句とはいったい何者。
浮世絵の女立たせむ牡丹雪 牡丹雪 初春
※牡丹雪は春の雪の傍題。身返り美人のような艶っぽい図を想像します。
傘閉ぢて振るひ落とせり春の雪 春の雪 初春
朝からの春雪異人館の窓 春雪 初春
春の雪血をもて汚してはならじ 春の雪 初春
※桜田門の変か二・二六事件を想像しますが、ミャンマーの状況を非難した句かもしれません。
魚は氷に鏡は心写さざる 魚は氷に 初春
※主季語は「魚氷に上る(うおひにのぼる)」、七十二候の一つで立春の第三候。
春になると、魚が氷の上に躍り出るという。一説に、魚が氷に沿って川を遡る意味ともいう。
この句は取合せの句。早春の季語と後半のフレーズの響き合いを味わいたい句です。
酒蒸しの酒かぐはしき浅蜊かな 浅蜊 三春
※食べ物の句は美味しそうに詠むべしと言われます。
たんぽぽや母恋の句は蕪村にも たんぽぽ 三春
黄砂降る奥へと目抜き通りかな 黄砂 三春
一家言あり白魚を食べるにも 白魚 初春
天金の鈍き光や逍遥忌 逍遥忌 初春(二月二十八日)
※「天金」が分かりませんでしたが、辞書を引いて納得。
洋装本で、上方の小口に卵白・ニスなどを用いて金箔を張り付けたもの、とあります。
坪内逍遥は岐阜県美濃加茂の出身の人。「小説真髄」は大学の文学の時間に出てきたような。
最近「獅子吼」誌上に、逍遥にちなんだエッセイを書かれていました。
災ひの列島たわみ春嵐 春嵐 三春
血の巡る音なり雪解川の音 雪解川 初春
※雪解けの水が、小さな流れからやがて大きな流れへと変わってゆく。
凍えた大地に暖かい血液を送り込むように、ドクンドクンと強い鼓動を響かせている。
春の雲ノアの箱舟とも仰ぐ 春の雲 三春
物腰のやはらかな人柳の芽 柳の芽 仲春
手を叩き鯉を呼びけり春の風 春の風 三春
永き日やうつつを抜かすこと楽し 永き日 三春
※日暮を遅く感じる春の日。どんなことに「うつつを抜かし」ておられたのか。
野球中継でないことは確かです。
寒くて、辛くて、そして暖かな冬ですね。
「黄砂降る・・・」解説が欲しいです。
春の嫌われ者は中国大陸から届く黄砂。
電車を降りて神田町通りを駅から柳ケ瀬へ。
折からの黄砂にいがらっぽさを感じながら、
足早に目的地に向かう師の姿を想像しました。
見慣れない字と思いますが、春の句で普通に出て来る「霾」という漢字があります。黄砂と同じ意味ですが「つちふる」「よな」「ばい」といろんな読み方のある字です。霾晦は「よなぐもり」と読み、黄砂で空がどんよりと黄色っぽくなる状態を言います。掲句は「霾晦」で切れがあり、「骨壺めける巨大都市」と続きます。黄砂の蔓延する春先の東京か、あるいは博多の街を詠んだ句でしょうかね。
次の句も霾の景がよく読み取れます。
日は月のごとくに薄れ霾れる 日原傳
嬉しくなって一杯書いてしまいました。自分の勉強になります。スミマセン。